星野リゾート・リート投資法人が7月12日に上場した。スポンサーもテナントもすべて同じ企業グループという前例のないREIT(不動産投資信託)だ。150億円という控えめな資産規模や利益相反に対する市場の懸念に対し、星野リゾートはどう答えるのか。観光立国に向けた産業振興にも熱い思いを持つ星野佳路社長に、スポンサーおよび施設運営会社の立場から率直に語ってもらった。4回にわたる連載の第1回は、REITを立ち上げた目的を聞く。



――星野リゾートがREITを立ち上げるとは想像していませんでした。なぜREITなのでしょう。

 私たちは、観光産業として成長していくために、どういう資金調達の形式がいいのかをずっと考えてきました。自社の上場やREITの組成、今までのように銀行借り入れで資金調達していく方法などさまざまあるのですが、そのなかでそもそもリゾートの不動産の価値ってなんだろうかという議論がありました。

星野佳路(ほしのよしはる)
星野リゾート代表取締役社長。1960年長野県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、ホテルオークラを経て、米コーネル大学ホテル経営大学院に留学。米シティバンクなどに勤務した後、1991年から現職。2004年より政府の観光立国推進戦略会議の委員を務めたほか、2011年からは経済同友会観光立国委員会の委員長を歴任するなど、観光産業の振興にも力を注ぐ。

 例えば東京のオフィスビルの場合ですと、ロケーションの価値がすごく大きい。リゾートの場合ももちろん有名な観光地にあるとか、世界遺産の横に立っているというのは大事なことですが、もう一つ価値を生む大きな要素として、運営の能力があります。運営能力の価値と不動産の価値とがうまくミックスされたときに、相乗効果でしっかりとした収益が出てくる。

 ただ不動産を所有し運営もしている星野リゾートが上場すると、投資家は不動産の価値に対して投資しているのか、それとも運営会社のノウハウに投資しているのかがあいまいになります。どちらかわからないものに投資してもらっていると、我々の経営の意思決定が会社の価値を最大にしているどうかは、見方によって変わってしまいます。

 私たちが最終的にREITにたどりついた理由は、不動産の価値と運営会社の能力が生み出す価値を切り分けていくことによって、投資家が何に投資しているのかを明確にできると考えたからです。所有側は不動産の価値の最大化のために意思決定をする。運営側は資金調達をして運営のしくみに投資する。所有側と運営側の役割を切り分けたうえで、協力して相乗効果を出していくわけです。これは1980年代から世界のホテル業界がやってきたことです。ハイアットもマリオットもヒルトンも、それで急激に世界中に進出しました。

 実は私は2004年から政府の観光立国推進戦略会議に参加していたのですが、これから観光大国をめざすんだと、観光地をつくりインバウンドを伸ばすんだと、こういう国の施策があるわけです。地方経済や雇用への貢献、農業など周辺産業への波及効果などもあって、いまほど観光産業が注目されている時はありません。その割に一般の人たちがその成長の果実を得られるというか、成長にかける機会というのがなかなかない。

 戦後日本のトヨタとかパナソニック、ソニーが世界に打って出たときのモメンタムというか、勢いというのは、やはりみんな参画できるからこそ生まれてくるものです。今回のREITとはまったく別な話として、僕がそもそもこういうことを検討しなきゃなと思ったのは、一般の投資家が資金の一部でも投資できるインフラというか環境をつくっていくことが観光にとってすごく大事だという思いがあります。