――本を開くと「顧客志向」「未来志向」という言葉が繰り返し出てきます。同じようなスローガンを掲げている不動産会社もありますが、違いはあるのでしょうか。

松村徹氏(ニッセイ基礎研究所 不動産研究部長)

松村 特別に目新しいことを言っているわけではありません。ただ、本に記した未来志向とは、若い人たちが新しい感覚で未来のビジネスを考えるという意味であって、過去の成功体験にとらわれている経営者たちのマインドセットとはちょっと違います。高度成長期に先人たちが積み重ねてきたビジネスモデルがうまく回っているので、今の経営者には見えないことがたくさんあります。

 たとえ問題点が見えたとしても、しがらみがあって動かすことができないという現実もあります。そういうしがらみがない若い人の新しい目線で見ていけば、不動産ビジネスには大きな伸び代があると思うのです。

――顧客志向の中身についても教えてください。

松村 ここでいう顧客志向とは、不動産プレーヤーは不動産を動かすだけでなく、テナントが決まったら引っ越しの手伝いからレイアウトまで全部引き受けるサービスをしませんかといった話です。

 顧客志向はユーザーズファースト、ワーカーズファーストに尽きると思うのですが、今はまだビジネスライクにやっているものが多い。私がよく不動産会社の人に言うのは、まず自社の最新ビルにテナントとして入って、実際に使ってクレームをつけまくってくださいということです。それでこそビルがよくなる。そういった感覚がこれからは必要になってくるでしょう。

――最新ビルなど持たない地場の中小不動産会社にとっての顧客志向とは?

松村 地場の不動産プレーヤーこそ顧客志向に近いところにいます。より生活に密着したサービスができるという点で、大手の不動産会社にはまねできない強みをもっているはずです。仲介会社として、ただ「こういう人がマンションを探しています」というチラシを作るのではなく、「こういう人が探していますが、専門家の目で評価した結果、あなたの家が最もふさわしいです」というような、きめ細かい提案ができるのも地場の不動産会社ならではです。

 マンション管理のクレーム処理を得意とする不動産になるといった選択もあるでしょう。すぐにお金になるかは別として、不動産は経済活動と生活のインフラなので、そこに本気で関わっていけばビジネスのネタがたくさん転がっているはずです。

――本のなかで挙げているアイデアは、今後どう進展していくとお考えですか。

松村 ここに挙げたビジネスは、すでに芽が出ているものです。皆さんが取り組んでいることに、私たちのアイデアを少し加えて再構築しました。新しい解決策をたくさん出す必要はなく、既存のものをどう時代に合うように変えていくかが重要です。この本を読んだ人が、「こういうことでもビジネスになる可能性があるのか」という気づきを増やしてくれるとうれしいです。5年後には、ここで書いたような「駅ウエ」の子育て支援マンションや都市のビルの「猫カフェ」などが当たり前になっているかもしれません。(連載終わり)

不動産ビジネスはますます面白くなる

不動産ビジネスはますます面白くなる

  •  定価:2,310円(税込)
  •  ニッセイ基礎研究所 不動産投資チーム
     (松村徹/竹内一雅/岩佐浩人/増宮守)著
  •  A5判、208頁
  •  2013年8月5日発行

聞き手:丹治明香(フリーランス)