"Digital REvolution"、つまり不動産業とIT技術の融合がテーマとなった今年のMIPIMコンファレンス。会期初日の3月10日には、シェアリングエコノミーを巡るパネルディスカッション「Toward the End of Ownership?」が開催された。UBER(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)など米国発のベンチャー企業が主導する新ビジネスは、それぞれタクシーやホテルといった既存ビジネスから激しい反発を受けつつも、着々と勢力を拡大している。保守的な不動産業界において、どこまでその影響力は及ぶのだろうか?

若者世代の価値観を捉える


「フランスでは人口の半分以上が、車や家、仕事場などを何らかの形で友人、知人とシェアしている。シェアリングエコノミーは次世代ではなく、まさに今、我々の時代のもの――」。Airbnbのフランス代表、Nicolas Ferrary氏は語る。

シェアリングエコノミーを巡る議論。発言者がAirbnbのNicolas Ferrary氏

 一般から空いている住居や部屋を募り、ネットで旅行者に貸し出すシステムを開発したAirbnb。現在は日本を含む世界193カ国3万3000都市を網羅し90万件を掲載する。このうち4万件がパリの物件だ。ホテル業界は同社に対して警戒心をあらわにするが、Ferrary氏によると、Airbnbはホテルの敵ではなく補完的な存在だという。

 「年々旅行市場が拡大している現在、パリのホテル稼働率は年間で平均80%を超えており、ピーク時には需要をまかない切れない。我々はこうした顧客の受け皿となっている」。さらに、同氏は、一般のホテル利用者と異なるニーズにも対応することで、市場の拡大に貢献しているという。ホームステイ体験にも似た個人宅への宿泊は、ひと味違う旅を求めている若者世代に好評だ。

 同社は、今まで全く収益を生まなかった一般住宅の空き部屋などに適切な料金を設定し、世界中から広く利用者を募ることで、所有者に新たな収益機会をもたらしている。仏大手金融機関AllianzのCEO(最高経営責任者)、Olivier Piani氏も「シェアリングエコノミーは、従来の産業側にとっても有効に活用できる基盤。従来の企業も、こうした若い世代のニーズを積極的にすくい上げるべきだ」とFerrary氏を援護射撃する。一方Ferrary氏は「業容を急拡大している今、伝統的な企業にグローバルな市場開拓のノウハウを見習いたい」とPiani氏に応じた。

 Airbnbのほかにも、MIPIMでは建物内の空間を共有するためのアイデアが数多く議論された。英国の店舗空間シェアサービス、Appear Hereが期間中のビジネスコンテストで1位を獲得したのはすでにお伝えしたとおり。一方、10日の「Sharing Spaces; Same Solutions for All?」と題されたパネルディスカッションでは、深夜のボーリング場をクラブや映画館に、また休暇中の学校をイベント会場などに活用するなど、フレキシブルに対応できる建物の事例が話題に上った。

 また、パリ大都市圏の23カ所で進められているReinventer Paris(パリ再発明)プロジェクトでは、民間オフィスビルなどの1階部分にシェアスペースを積極的に取り入れ、地元コミニティが利用できる職・住・遊共存の場所を作ることで地域の活性化を図っているという。

スタートアップ向きのオフィス空間に注目


 金融危機後の世界では、爆発的に雇用を拡大するスタートアップ企業がオフィス需要の牽引役となっている。Amazon、Googleを筆頭に無数の新興企業も含めたITベンチャーが、金融セクターから失われた床需要を代替している格好だ。こうした起業家は、急拡大する人員に対応すべく、フレキシブルなリース契約を求めている。

サービスオフィス会社、仏nextdoorのPhilippe Morel社長

 フランスの大手不動産会社Bouygues Immobilierは、こうした動きに素早く対応した会社の一つ。昨年、サービスオフィス運営子会社のnextdoorを設立し、スタートアップ企業の囲い込みを図っている。6月にパリ郊外に開業した300人収容のシェアオフィスでは、1人月300ユーロで入居者募集。すでに7割近くの引き合いが来ているという。

 Philippe Morel社長は「伝統的な会社が自社ビルの空きフロアにサービスオフィスを設定し、アウトソーシング先のIT企業などを迎えることで、若い起業家たちとイノベーティブな事業アイデアの共有を図る例が生まれている」と話す。1年以内に、ヨーロッパ主要都市に6~7拠点を開設予定。加えて上海にも進出を計画している。

 新興企業には従来のデスクでの作業は少なくなり、共有スペースを優先したくつろげる空間が求められている。仏家具メーカーVitraのマネジングディレクター、Isabelle De Ponfilly氏は「若い世代は家やカフェのようなオフィスを好む。居心地のいい職場は優れた人材を引きつけ、高い生産性を生み出す」と語る。

仏Vitraのオフィス家具。企業内の共用スペースを想定する

篠田 香子=フリーライター