この1カ月、急速に円安ドル高が進んでいます。かつて有事の円買いという時代もありましたが、結局はドル買いに回帰しました。背景の一つはご存じの通り日米の金利差です。インフレ退治のために政策金利引き上げを急ぐ米国と、長きにわたる異次元金融緩和で金利を抑え込む日本。今後、金利差はさらに拡大していきます。日本では少なくとも、黒田・日本銀行総裁の任期が切れる来年4月までは現在の金利水準が維持される見通しで、円安・低金利の環境下でインバウンド不動産投資の増加が見込まれます。ただ、ポスト黒田の金融政策に変化が生じる可能性や、キャップレートが相当に下がっていること、オフィスを中心に収益向上の青写真を描きにくくなっていること、地政学的なリスクが日本でも意識され始めた現状などを考えると、いよいよ難しい投資環境に突入した感もあります。日経不動産マーケット情報2022年5月号では、この第1四半期の売買事例を基に、足元の不動産市場を分析しています。全体の取引高は前年比8%減と振るいませんでしたが、その中で土地取引は153%増と好調でした。記事では期中の大型取引や、オフィスの推定利回りなどをまとめていますので、ご覧ください。

 四半期に1度実施しているオフィス成約賃料調査も5月号に掲載しました。前述のようにオフィスは賃貸市況が弱含み。東京の調査対象22エリアのうち、半年前との比較で5%以上下落したのは10カ所に上りました。既存テナントの引き留めに腐心するオーナーも少なくないようです。記事では神奈川2エリア、大阪4エリアを含めた28エリアの賃料水準をグラフで示しています。日経不動産マーケット情報のウェブサイトでもヒストリカルデータをエリアごとに載せていますので、併せてご活用いただければと思います。

 売買レポートは、清水建設が大阪で取得したトレードピア淀屋橋や、ジャパンリアルエステイト投資法人が225億円で持分24%を取得した豊洲フロント、米ハインズがイケアから取得した物流施設など、記事27本を収録しました。また、これらを含む取引事例137件を一覧表にまとめています。2002年の創刊以来の取引データは「ディールサーチ」で提供しています。トラックレコードをお探しの際はぜひご利用ください。

 日経不動産マーケット情報は今号で創刊20周年を迎えました。不動産投資市場の拡大と透明性向上を理念に、これまでコツコツと情報発信を積み重ねてまいりました。長きにわたって報道を続けてこられたのも、ひとえに皆様のご愛読、そして取材へのご協力があってのことです。厚く御礼を申し上げます。日本の不動産投資市場にはまだまだ成長の余地があります。一方で、冒頭に記したように先行きの不確実性が高まってもいます。小誌は今後、市場のさらなる発展および皆様のビジネス拡大に向けて、先を読み解く情報の提供を強化していく所存です。引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

編集長 三上 一大