パシフィックセンチュリープレイス丸の内が2000億円で取引されたことに驚かされたばかりだが、世界は広い。ニューヨークでは10月半ば、54億ドル(約6300億円)という途方もない金額の取引が成立した。米生命保険大手のメットライフ・グループが、マンハッタンのイーストリバー沿いにある二つのアパートメント群、スタイヴサント・タウンとピーター・クーパー・ビレッジの売却を決めたのだ。全米で過去最高額の取引だという。

 同物件は、合わせて32万m2以上の敷地に約1万1000戸のアパートメントや店舗、スポーツ施設が建ち並び、2万5000人以上が生活するという巨大なもの。買い主はティッシュマン・スペイヤーとブラックロック・リアルティだ。ティッシュマンはニューヨークを代表する不動産会社で、ロックフェラーセンターやクライスラービル、メットライフビルといった有名物件を運用している。

 現地の報道によると、メットライフは40億~50億ドルでの売却を考えていたようだ。しかしふたを開けると、それを上回る54億ドルの値が付いた。住民たちは「家賃が上がるのは確実」と戦々恐々だという。「ニューヨークの不動産は高くなりすぎた」と、ある投資銀行の不動産担当者はみているが、世界的なカネ余りのなか、投資したい人たちはまだたくさんいる。この機会をねらって物件を売り抜けようとする動きも強い。

 実は妻が暮らすアパートメントも、このたび売却が決まった。前述のスタイヴサント・タウンに近い立地で、プライベートな公園に面した最高の物件だったのだが、現オーナーは空室での引き渡しを約束したらしく、立ち退き交渉を受けている。契約上は突っぱねることもできるが、つたない英語力では交渉に骨が折れる。転居者が増えるなか、妻も引っ越し先を探し始めた。ここのところ、ニューヨークでは家賃の上昇が続いている。円安も相まって、家賃負担は確実に今よりも重くなりそう。我が財布は軽くなる一方だ。

(三上一大)