仕事柄、国の機関や民間のシンクタンクなどが発表する報告書に目を通す機会が多い。さっと見て、日経不動産マーケット情報の読者にお伝えする価値があるかどうかを判断し、ポイントを絞る。報告書だけでは理解できない点は、記者が問い合わせて探る手順だ。

 最近、読んだものでおもしろかったのは「国家公務員宿舎の移転・跡地利用に関する有識者会議」の報告書だ。内容は6月14日付で報じた通り、東京23区内の売却対象施設を明らかにしている。ここでは、ニュースで伝えた内容とは別に、私が個人的に「へー」と思った点を紹介しよう。

<その1:周辺が買われるかもしれない>
 効果的な売却方法の項目では、「宿舎跡地だけでは資産価値が低水準であるものについては、可能であれば周辺を一体的に利用することにより付加価値を高めることも重要である」と書かれている。その対象として、接道条件が悪い土地や整形でない土地を例示した。つまり、売却対象の周囲の土地は、一体で整形化して売却対象とする可能性があるということだ。

<その2:転売目的の売却を避ける>
 有識者会議は、宿舎売却がバブルの発生を招くことを心配している。「いわゆる転がしではなく、実際に建築物を建てるという実需に基づくように売却方式を定めれば、(中略)バブルを煽る可能性はほとんどない」。というわけで、単純な転売狙いの企業が宿舎跡地を手に入れるのは難しそうだ。有識者会議は、価格だけを競わせないコンペ方式の導入を検討課題に挙げている。

<その3:セクショナリズム健在>
 「各省庁からのヒアリングでは、省庁独自による効率的な入居調整が可能であることなどが省庁別宿舎が必要な理由として述べられた」と、報告書は記している。文章がわかりにくいが、各省庁は個別の宿舎が必要だと言っていたようだ。国の資産の有効活用が求められるなかで、セクショナリズムを感じさせるこの意見は聞き捨てならない。有識者会議も「省庁別宿舎でなければならない絶対的な必要性は認められない」と切り捨てている。

<その4:メンバーには三井不動産と三菱地所>
 有識者会議のメンバーとして、不動産分野からは三井不動産と三菱地所の役員が参加している。国の会議や委員会は、大手不動産会社から選ばれることが多い。常識的な判断なのだろうが、住宅系REITの運用会社や不動産ファンドの運用会社からメンバーが選ばれてもいいと思うのは、私だけだろうか。大手とは違ったアイデアが出てくるのではないか。

 報告書は、財務省のウェブサイトから入手できる。

(菅 健彦)

関連記事:東京23区内の国家公務員宿舎218カ所を売却
財務省の発表