「いや、困ったことになった。今年は厳しい年になりそうだ」。ある米系投資会社の日本代表はこう語る。米国本社はこのたび、日本での資産規模を拡大することを決めた。日本サイドではこれまで、収益を重視した手堅い投資を実行し、本社からも高い評価を得ていた。しかし、日本を“買い”と見た本社は、資産規模を大幅に拡大するよう求め始めてきた。「マーケットの過熱ぶりを何度も説明したのだが、わかってもらえない」と日本代表は困り顔だ。

 同社のように日本への不動産投資を拡大している会社は多い。欧州系証券会社が最近組成したファンドは、世界各国の不動産に投資するなかで、資金の4割を日本に振り向けるという。また、英国の新聞が最近報じたところでは、某米系投資会社は今年、日本での運用資産を現在の20億ドル(約2300億円)から50億ドル(約5800億円)に引き上げることを決めた。日本買いを進めるのは、日本の景気拡大に期待をかけているからだ。

 気になるのはゼロ金利政策がいつ解除されるかだ。国の借金はついに800兆円を突破し、昨年末時点で813兆1830億円に達した。国民1人当たり637万円にも上る。「金利引き上げは、国の首を絞めるようなもの。ゼロ金利政策を見直しても、当分は小幅な引き上げにとどまる」と楽観的に構える不動産関係者が多い。しかし、不動産市場に冷や水を浴びせるのは金利だけではない。税制改正や不動産融資規制など、かつてバブルを破裂させた施策はほかにもある。バブル経済の発生と崩壊から日本銀行や国が何かを学んでいるとすれば、早め早めに手を打ってくる可能性がある。

 ある実力派不動産プレーヤーがこんなことを言っていた。「不動産の相場価格というのは、一番高い価格が付いた取引が集積して形成される。多くの人が適正と考える値段とは違うものだ」。高い値付けをする背景には、いろいろな事情や思惑がある。それをあたかも市場の適正価値と考えて、投資判断をしてしまうことに警鐘を鳴らしている。市場の風向きはいつか変わる。その時に評価されるのは収益性を重視して不動産を取得・運用している会社であると、冒頭の米系投資会社には進言したい。

(三上 一大)