先日、渋谷にある書店に行ってみたところ、「6月30日をもって閉店」の張り紙が出ていた。駅からほど近く、老舗と言われる書店だっただけに驚いた。思い出してみれば、入居していた建物の老朽化は否めず、1フロア当たりの面積もさほど大きくなかった。お世辞にも利用しやすい店舗とは言えなかった。

 そういえば、よく利用する駅の近くでも、ある書店が7月末に閉店した。この建物には、経営破たんしたスーパーマーケットが入っていたこともあったから、あまり縁起がよくないのかもしれない。同じ駅の周辺では、昨年も別の書店が突然、閉店した。文化・芸術関係の書籍に強く、品揃えに特徴がある書店で、営業中止は特定の顧客層には衝撃的だったと思う。その後、同じ場所に関西を本拠地とする書店チェーンが出店した。目測で2倍以上になったと思われる店頭在庫数に、当初は圧迫感を感じたが、ほどなく慣れてしまった。

 書店の大型化が加速する一方だ。全国チェーンの出店も増えて、大型店の間でも競争が激化している。中小規模の書店には苦難の時代だ。また、一定額以上の買い物をすれば送料が無料になり、早ければ翌日に宅配するネット書店も、市場規模が着実に拡大している。大型書店とネット書店の使い分けも、かなり進んでいるように思う。

 大型書店は、商業施設にとってテナントの有力候補となるだろう。ネット書店の市場拡大は、物流施設ニーズの増加につながるかもしれない。だからといって、中小規模の書店にしわ寄せがいくことを、時代の流れと片付けていいのだろうか。足を棒にして図書館や本屋をめぐってお気に入りの本を探しあてた時代と比べて、書籍を入手する利便性、効率性は飛躍的に高まった。しかし、書籍を使いこなす知力は、それに見合うだけアップしているのだろうか……。そう考え始めると、こじんまりした本屋が妙に懐かしくなった。

(橋本 郁子=不動産アナリスト)