あるオフィス仲介会社の営業担当者は、「最近、存在しないオトリ物件を紹介しているのではないかと、顧客に疑われたことがある」と話す。通常、営業担当者は顧客の要望を聞いて、数多くの募集物件の中から条件に合う複数のビルを紹介する。しかし、顧客が物件を検討している間に、次々と別のテナントの入居が決まってしまうケースが増えている。「紹介した6物件中3物件が、1週間足らずで別のテナントに成約してしまったこともある」(営業担当者)。それで、ありもしない物件を紹介していると疑われたのだ。

 衣料や家具の販売を手がける企業が2005年秋、東京の都心部から郊外に本社を移すことを決めた。オフィスが手狭になったため、半年以上前から移転先を探していた。入居するのは延べ床面積1万m2を超えるビルだが、最寄り駅から徒歩10分以上かかる。オフィス仲介会社の営業担当者は、「半年前、最初に紹介した時は『こんな不便な場所にある物件は問題外だ』といって真剣に検討してもらえなかった」と苦笑いする。より立地がいいビルを探している間に大規模ビルの賃料相場が上昇してしまい、希望の賃料で入居できるビルがなくなった。結局、「問題外だ」と表現したビルに入居して、立地の悪さを我慢することになった。

 賃貸オフィスビルの稼働率上昇が続くなか、移転先選びでは素早い決断が求められている。そのために必要なのは情報力だ。「オトリ物件ではないか」、「問題外だ」という考えが出てくるのは、急激に変化している市場動向を把握していないからだ。仲介会社から物件情報を受け取るだけでなく、市場全体に関する情報を自ら収集することが大切になっている。そして、最終決定者である経営者にその情報を説明して、一刻も早い決断を促さなくてはならない。

(高橋 敏雅)