都心部の賃貸オフィス市場は、ここ数年で大きく様変わりした。オフィス賃料の上昇スピードは速く、取材を通して「最近では、エリアの賃料相場が把握しにくい」という声をよく聞く。オフィス仲介会社が発表する募集賃料の推移を見ると、データ上はそれほど賃料が急上昇していない。これは、優良で賃料水準が高いビルのテナント募集が少なくなるにつれて、データのサンプルが比較的、賃料水準が低いビルに片寄っているからだろう。

 オフィス需給がひっ迫し、賃料水準が急上昇しているなかで、市場の実態に近い賃料データをどのように整備すればいいのか。これが、なかなか難しい。このところ、小規模なビルや築年数が古いビルが、オフィス移転の受け皿になっている。このため、成約価格を基にしたデータをまとめても、募集賃料のものと同じように賃料水準が低いビル中心になりがちだ。

 結局、そのエリア内で築年や規模などが平均的なビルと、新たに完成したビルの成約価格を一つひとつ集めて、これらの数値からエリアの実勢値を推し量るという“正攻法”しかなさそうだ。もちろん、オーナーとテナントとの関係によって成約価格が相場とかけ離れたり、新築ビルでは募集床が残り少なくなって水準が高くなったりすることがある。こうした特殊要因も加味しなければならない。

 ある不動産関係会社の人が「住友不動産の新築ビルの成約価格が、そのエリアの実勢値を測るベンチマークに適しているのではないか」と話していた。同社は、完成時点で満室稼働することにこだわらず、適正価格でテナントを確保する方針を公言している。成約する際の特殊な要因が他に比べて少なく、「テナントが払ってもいいと思う上限値に近いはずだ」というのだ。おもしろい視点だなと思った。ただ残念なことに、同社のビルに限らず、オフィスビルの成約価格そのものを把握することは非常に難しい。これだけは、オフィス市場がどう変化しようと変わっていない。

(徳永 太郎)