アドバンス・レジデンス投資法人は8月12日、運用資産のアルティス京橋が地区計画違反の状態にあることを発表した。本来は一般の住宅だけが対象になる容積率の緩和措置を受けておきながら、実際にはマンスリーマンションとして利用していた。この違反状態を指摘したのは不動産鑑定会社だった。2006年6月期決算に伴う不動産鑑定の際に、違反に気付いたという。

 金融庁による信託銀行への行政処分が相次いだこともあって、信託を使った違法建築物の取引はほとんど不可能になっている。ある信託銀行では、「エンジニアリングレポートがあっても、銀行独自に物件の違法状態をチェックしている」と話していた。また、買い手側もチェック体制の強化を進めている。例えば、日本プライムリアルティ投資法人(JPR)の運用会社である東京リアルティ・インベストメント・マネジメントは、9月から内部にデューデリジェンス小委員会を設ける。不動産取得時の検証体制を強化するのが目的だ。アルティス京橋のように不動産鑑定会社によるチェックも働けば、信託銀行、買い手、鑑定会社による二重三重の検証体制ができあがることになる。

 不動産鑑定協会はいま、不動産証券化における評価手法の実務指針を作成しようとしている。指針案を8月7日に公表して、8月31日で意見募集を終了した。早ければ9月末にも指針を作成する予定だ。この指針案のなかでは、違法建築物を鑑定評価する際の対応をまとめている。案のなかで示された基本的な考え方は、違法状態を解消できる物件は適法化してから鑑定評価することを原則としたうえで、適法化にかかる費用を見込んで鑑定評価しようというものだ。適法化できない物件については、「証券化案件としてふさわしくない案件であると考えられるので、謝絶する」との考えを示した。

 違法建築物に注がれる目は厳しくなる一方だ。不動産鑑定評価の実務指針案をみても、違法建築物が証券化市場からはじかれる状況になりつつあることがわかる。ちなみに、この実務指針案では、市場データの充実といったインフラ整備も大きなテーマの一つだ。エリア別の取引利回り水準を鑑定協会としてまとめる方針を示唆するなど、見どころの多い内容になっている。

(徳永 太郎)

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