目黒区の住宅解体現場で最近、起きたことだ。この現場では、吹き付けアスベスト(石綿)が使われていないにもかかわらず、いったん作業をストップした。解体工事が始まることを知った近隣住民がアスベストの有無を問い、役所にも電話をかけた。想定外の対応に追われた事業者は、無実を証明するために近隣にチラシをまき、現場内も公開した。

 場所は変わって中央区銀座8丁目の工事現場。仮囲いには「当解体工事作業所内に、石綿が存在していません」という告知文が掲げられている。「中央区役所 公害規制係 確認済み」の説明書きもある。こちらは近隣住民から求めがあったわけではなく、施工者である大林組の自発的な取り組みだ。

 アスベスト問題について、報道が住民やテナントなどの不安を煽っているという指摘がある。しかし、住民やテナントの心配は当然である。敵は飛散したら見えないアスベストだ。自ら現場に立ち入って原因物を確認することができない人たちは、事業者に不安をぶつけるしか方法がない。

 8月20日付のニュースでお伝えした通り、三菱地所はアスベストのないビルのテナントにも実態を通知する方針を示した。その姿勢に私も賛成する。何よりテナントが安心する。通知先が増えるので面倒な気もするが、実際は逆だろう。問い合わせにいちいち対応しなくてすむので、自分のペースで仕事ができる。「ないこと」を公にすることによって、「想定外」が「想定内」になる。

(菅 健彦)