港区青山にあるオフィスビルが8月、入札方式でテナントを決めた。「店舗のテナントを入札方式で募集することはあるが、オフィスビルではほとんど聞いたことがない」と、オフィス仲介会社の営業担当者は話す。入札方式でテナントを募集したのは、地下鉄表参道駅から徒歩1分、青山通りに面したビルだ。基準階面積は100坪を少し超える程度で、1990年代前半に竣工した。

 通常、オフィスビルのテナント募集では、先に申し込んできた企業を優先して契約に向けて交渉する。条件が折り合わなければ、次に申し込んだ企業と交渉する。それに対して、このビルでは管理を手がける大手不動産会社が8月中旬に締め切りを設定したうえで、入居を希望する企業を対象に支払う賃料の金額を入札にかけた。「ビルの所有者は、1坪当たり共益費込み3万円台半ば以上を希望しているという話だった。落札結果は不明だが、希望金額を上回ったことは間違いない」(同営業担当者)。

 青山、表参道、渋谷地区では、基準階面積100坪以上のビルの募集物件が少なくなっている。なかでも、このビルはシンボル性がある希少物件で、入居希望者が非常に多かった。入札にかけても一定の参加者が見込めるとビルの所有者も自信を持っていたようだ。今後、テナント募集でこうした入札方式がそれほど増えるとは思えない。しかし、青山、表参道、渋谷地区といったテナントから人気が高い地域では、これまで以上に貸し手優位の交渉が多くなるだろう。それがどこまで賃料上昇につながるのか。「9月に青山地区で空室になる大規模ビルがある。成約賃料は4万円を超えるはずだ」と営業担当者は予想する。

(高橋 敏雅)