7月、あの青山ブックセンター(ABC)が倒産した。アート系に強みを持つ個性的な品ぞろえで人気があったが、不動産投資の失敗が原因となって倒産に追い込まれたと伝えられている。ABCの倒産には当然、驚いた。しかし、もっと驚かされたのは、ABC新宿店が入居していた駅ビル、ルミネの素早い動きだ。ABC閉店からわずか10日で、跡地に大手書店チェーンのブックファーストを誘致してみせた。

 都心の店舗ビルはテナントの流動性が高く、仮にテナントが倒産しても、代替テナントを見つけるチャンスが多いという好例だろう。ところが、郊外や地方の大規模商業施設となると、そうはいかない。キーテナント候補は数が少ないし、物件がそうした企業のお眼鏡にかなう確率はもっと少ない。大規模商業施設では信用力のあるテナントとの長期契約が基本になる。

 いま、商業施設投資において、イトーヨーカドーが大人気だ。日本リテール・ファンド投資法人はすでにイトーヨーカドー関連の店舗を5棟所有しているが、6月、さらにイトーヨーカドー綱島店を50億円で取得した。東急リアル・エステート投資法人は7月、イトーヨーカドーが核テナントのビーコンヒルプラザを95億2000万円で取得した。森トラスト総合リート投資法人はイトーヨーカドー新浦安店を121億5000万円で購入した。某プライベートファンドも、最近イトーヨーカドーの店舗を購入したそうである。さらに、8月9日に上場を控えているフロンティア不動産投資法人も、イトーヨーカドーが核テナントのジョイフルタウン岡山を110億円で取得することを決めている。

 イトーヨーカ堂の長期信用格付けはAA(スタンダード&プアーズの評価)。ほかのどこの小売企業よりも高い信用が、人気を支えている。リスクを最小限にとどめたい投資家の間で、イトーヨーカドー店舗の取得需要はまだまだ続きそうだ。

(三上 一大)