ビルの建設現場の前を通るときは必ず上に目をやり、クレーンが動いているときは荷の安全を確かめてから進む。清掃作業用のゴンドラがぶら下がっているときも同様だ。昔、建設現場で働いていたときに身に付いた習性である。

 オフィス街を歩きながら、ときどき考えることがある。大地震が起きたら、その場にとどまるべきかビル内に逃げ込むべきか……。とどまれば外壁やガラスが落ちてくる危険がある。逃げ込んだビルが崩壊し、下敷きになるのもいやだ。これまで判断の基準がつくれないでいたが、3月20日に発生した福岡県の地震被害を見て、考えが少しだけ整理できた。

 先の地震では、西日本鉄道所有の福岡ビルの窓ガラスが大量に破損して落下した。ガラスがバラバラと落ちてくる映像は衝撃的だった。破損数は実に444枚。ガラスの固定に硬化性のシーリング材が使われていたことが、大量破損の原因と考えられている。国土交通省では同じように危険なビルがあるとみて、実態調査に乗り出した。

 硬化性の材料は1978年の宮城県沖地震を機に、原則として使用を禁止された。福岡ビルが完成したのは、使用禁止になる前の61年のことだ。95年の兵庫県南部地震のときも、硬化性の材料を使った窓ガラスに被害が集中したことが、板硝子協会の調査によって明らかになっている。「構造的には、S造、RC造の建物の被害が比較的多く、築後20年以上を経過した古い建物の壁面やガラスに被害が多い」(「兵庫県南部地震における窓ガラスの被害状況調査報告書」1995年3月、板硝子協会)。

 改修工事が施されたビルもあるので一概には言えないが、古いビルのガラスは、破損・落下の危険性が高いと判断できる。そこで提案。ビルの入り口に完成年のシールを貼ってほしい。ガラス破損の危険だけでなく、新耐震基準でつくられたビルかどうかの判断材料にもなる。どうせなら、免震化されたビルや耐震補強済みのビルも表示したい。例えば、シールの大きさは直径20cmくらいで、地震に強いビルは緑色のシールにする。逃げ込めるビルの証だ。

 最近、街を歩くと、「こども110番」のシールが貼られたビルをみかける。子供たちが事件に遭遇したときのために、避難できる場所を知らせる試みだ。完成年のシールもこれと似た発想である。老朽化したビルのオーナーから反発の声が聞こえてきそうだが、安全はすべてに優先する。地震国ニッポンの知恵として世界も認めるのではないか。

(菅 健彦)

■関連記事
ガラス落下の改善指導求める、福岡沖地震受けて国交省
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/NFM/free/NFMNEWS/20050324/121689/