あるビルオーナーの話だ。今年1月中旬に1.5フロア、750坪を借りたテナントがいた。複数の入居希望者がいたため、これまでに比べて1坪当たりの募集価格を1000円高く提示した。それでもすんなりと契約に至った。その後、このオーナーは0.5フロア、250坪の募集価格を、さらに1坪当たり3000円アップした。すでに3社が入居を希望している。オーナーはほくほく顔だ。

 この物件を仲介した不動産会社の社員は、「昨年末から成約価格が毎月、坪1000円ずつ上がっているエリアがある」と語る。別の仲介会社の営業担当者は、「オーナーは今がチャンスと浮き足立っており、募集価格をやや上げすぎの感もある。移転を取りやめるテナント企業が出てきて、賃貸市場が停滞してしまうかもしれない」と心配する。

 こうした賃料上昇の変化を理解していないテナント企業もいるようだ。これまで移転候補だったビルオーナーと交渉して賃料が下がった経験を持つ企業のなかには、「まだまだ条件が良いビルがあるかもしれない」と移転を先延ばしにしてきたところもある。こうした企業が、「まだ1000円下げたい」と考えるうちに、ビルは別のテナントで決まってしまう状況になった。結局、1坪当たりの賃料がオーバーしたり、築年数が古いビルを選んだりと、条件が悪くなるケースが出てきている。

 企業移転の記事をまとめる立場の私も、急激な変化についていっているのか自信がない。移転企業の成約価格をつかんだ時点で、そのビルの賃料は上昇しており、トウが立ったネタになっている気もする。ニュースとして価値が高く、新鮮な情報をいかに速く入手するかを、今まで以上に考えるようになった。スピードについていくのは難しいが、可能な限り最新情報を流せるように努力していきたい。

(田辺 直子=フリーランス)