今年の流行語の一つに「球界再編」が挙げられている。この話題がテレビで報道される際に、渦中の楽天、ライブドアのオフィスが、ともに六本木ヒルズ森タワーにあるという説明と社内の映像がしばしば流れた。おかげで、両社のオフィスを少々のぞくことができた。

 放映されたのはオフィスのごく一部だから、これをもってオフィス全体を判断するのは避けるべきだろう。ただ、ちょっと意外だったのは、画面に映ったオフィスのレイアウトが、両社とも旧来型の大部屋スタイルだったことだ。かなり密度が高いオフィスレイアウトだと見受けた。今を時めくIT企業のオフィスとなれば、テレビドラマや雑誌に出てきそうな個室やブースで構成された広々としたオフィスを想像しがちだ。

 日経不動産マーケット情報が昨年まとめた「オフィスビルテナント調査報告書」によれば、1人当たりのオフィス面積は、ソフトハウス・情報処理・システム開発等の業種が11.8m2と最も低かった。「勝ち組」のIT企業では、従業員の増加にオフィスが追いついていないのだと解釈した。企業の成長段階と、オフィスの選定や利用方法には、密接な関係がある。一般的には、企業が成長するとともに入居するビルも徐々に大規模になり、より都心の立地を目指すようになる。短い成長期間でダイナミックに移転するのが、こうした「勝ち組」のIT企業だ。

 今から4~5年前に、目黒区中目黒にあった楽天のオフィスを訪ねたことがある。猛暑の時期だったが、オフィスに到着した時に全身が汗でびっしょりとなるくらい駅から歩いた記憶がある。それでも、1階に数多く設けられた接客スペースは、来客でかなり埋まっていた。中目黒に移転する前は、そこから近い祐天寺駅周辺にオフィスがあった。祐天寺駅周辺に住む多数の従業員が自転車で通勤できることや、都心からさほど遠くない場所で1棟借りできることなどが、中目黒にオフィスを構えた決め手になったと聞いた。あれからわずか数年で、六本木ヒルズに移転したのだから、いかに急成長を遂げたかということがわかる。

(橋本 郁子=不動産アナリスト)