この夏にイギリスに出かけた。ロンドン中心部のビル街では、カフェチェーンが軒を連ね、紅茶の国の人たちがコーヒー好きでもあることがわかった。米国系のスターバックスに、複数の地元資本の店も加わって、出店競争には相当厳しいものがあるとみた。スターバックスのサイトによると、出店数はロンドンで191店、東京都で198店となっている。ロンドンが約720万人、東京が約1200万人という人口を考えると、ロンドンでの出店密度の高さがうかがえる。現地の新聞で、個人経営の老舗カフェが高騰する賃料を負担しきれず、次々と閉店に追い込まれているという記事も目にした。

 撤退といえば、日系百貨店もここ数年の間に次々とロンドンから姿を消したようだ。私の知る限りでは、高島屋、そごう、伊勢丹が閉鎖した。そごうの撤退跡にはイギリス資本のヴァージンメガストアが、伊勢丹の跡には宝飾品のデビアスが出店していた。撤退には、日本企業の駐在員と日本からの旅行者の減少が響いていると聞いた。

 地元資本の百貨店で買い物をして、その変化に驚いたことがある。食料品売り場で惣菜を少量買い求めたところ、小さい容器に少し入れて「これくらいですか?」とにっこり尋ねられた。実は10年ほど前、初めてロンドンを訪れた時にも同じように少量の惣菜を買い求めた。大きな容器にめいっぱい惣菜を詰めていた店員から、「減らすの!?」とにらまれた。少し肩身の狭い思いをした。これが忘れ難い記憶になっていたのだ。今回は、ホテルに持ち帰ってさらに驚いた。プラスチックのフォークとナイフのセットが添えられていたからだ。

 別の百貨店では、商品をレジに持っていくと、丁寧に白い薄紙で包装してくれた。大柄な男性店員が大きな手で白い薄紙の端と端をそろえ、それらをくるりと織り込んでシールを貼った。その姿を見て、ふと気づいた。これは日本のお家芸だったはずだと。それにしても、かなりの練習量が想像できて、少しおかしかった。

 テイクアウト向けのナイフとフォークも白い薄紙も、過剰サービスだという見方もあるだろう。ただ、こうしたきめ細やかなサービスには、日本から来た百貨店の影響があったのだと思う。日系百貨店の撤退が続いたが、日本型のサービス精神のいくらかは現地に残ったといえるのではないか。イギリスは頑固な国だという先入観があったが、サービスの質は柔軟に変化していた。そこに、小売業界のし烈な競争を垣間見たような気がした。

(橋本郁子=不動産アナリスト)