この春、文部科学省が庁舎の建て替えのため、千代田区の丸の内のビルに移転した。三菱重工業が転出したビルだ。先日、所用で文部科学省を訪れた。入口でチェックを受けた後、地階に下りていくと、食堂、物販店などがあって、そこはまるで霞が関そのものだった。「丸の内まで来て、何も旧庁舎と同じ雰囲気にしなくても」と思ったが、建て替え期間中の暫定的な利用なので変えなかったのだろう。

 文部科学省ビルは、ブランドショップが並ぶ仲通りに面している。ビルの1階にもブランドショップが入居している。文部科学省ビルから表に出ると、ビルの中の霞が関の世界と、路面店の華やかさとのギャップが何ともいえない。文部科学省の職員のサンダル履きは、仲通りのドレスコードには触れないのだろうか、などと余計な心配まで頭をよぎった。

 かつて渋谷マークシティが竣工した時に、テナント企業のオフィスワーカーたちのカラフルでカジュアルな服装に、渋谷というエリアの特性を再認識した覚えがある。金融機関に多い女性社員の制服姿も、丸の内や日本橋あたりでは違和感はないが、青山や恵比寿あたりでは、どこか浮いた感じがする。

 こうした違和感を感じるのは、我々が無意識のうちにエリアの個性を感じ取っているからにほかならない。立地する企業や商業施設、飲食店の顔ぶれ、街並みや景観などが積み重なって、独自の個性や特徴を生み出している。それを各自が感じ取って、主観的にエリアの個性を評価しているのだ。新しく完成した多くの大規模ビルも、テナント企業や店舗が定着するにつれて、エリアの個性づくりに一役買うことになる。

 ビルの評価では、エリアの評価が欠かせない。デューデリジェンス(詳細調査)や格付けなど、投資用ビルの評価手法は確立されつつある。ところが、エリアの個性や特徴を客観的に評価したり、表現したりすることは難しい。個性をうまく説明、評価する共通の「ものさし」のようなものがあれば、ビルやエリアの将来性を詳細に予測するなど、より精緻な投資戦略を立てられるかもしれない。エリアの個性の評価に新しい知恵が求められている。

(橋本 郁子=不動産アナリスト)