テーマによっては、やたらと手間のかかる取材がある。小誌8月号で紹介したAIG日本橋本町ビルの建築基準法違反は、その典型だった。完成後のビルの使い方が法律違反に問われたこの事例は、制度自体がややこしいのに加え、当事者であるAIGグループは取材拒否。おまけに都の担当者が途中で異動してしまうなど、思うように取材が進まなかった。

 しかたなく、東京都の情報公開制度を利用した。所定の手続きを得て入手した開示資料は、A4とA3用紙で70枚ほどの量だ。内容は、違反フロアの是正を求める通知書や、通知を受けた一部企業の意見書、AIGグループが作成した是正計画書など。これらの書類を読むと、都の指導の大まかな流れが見えてくる。また是正計画書には図面とともに、イメージパースが添付されており、担当者の話だけでは分かりにくかった是正内容が理解できた。

 一方でまったく分からなかったこともある。是正計画書にはビルの受益権者であるSPCの名前で、「是正については、本建築物の実質的所有者である弊社の負担で行います」と記してあった。しかしSPCは単なるペーパーカンパニーであり、実質的な責任主体はほかにあるはずだ。そもそもなぜ違反が起こったのかを明らかにする記載が、どこにも見当たらない。

 責任主体を明らかにすることは、違反の再発を防ぐうえでも重要なことだ。その点で今回の開示資料は十分なものとはいえなかった。とはいえ情報公開という制度が、有力な事実確認手段の一つであることに変わりはない。同じ過ちを繰り返さないためにも、トラブル情報をオープンにしていくことが必要だ。

(坂井 敦=フリーランス)