不動産売買では、時として裏取引が行われるものだ。都内にある某ビルのオーナーはバブル時代末期、20億円を優に超える借金をしてオフィスビルを建設した。ところが賃貸市況が悪化するなか、メーンテナントが退出。返済のめどが立たなくなり、ビルを売却することになった。ある不動産会社はこのビルを推定18億円で購入したが、表向きの売却価格は15億円で、残り3億円は裏金として支払ったとみられる。オーナーは現金3億円を密かに手元に残したわけだ。

 もし融資をしていた銀行がこれを知ったら、黙ってはいないだろうと思った。ところが、さる事情通によると、銀行は見て見ぬふりをしている可能性があるという。バブル時代には銀行が必要以上の資金を強引に貸し付けて、ビルを建てさせるケースが目立った。こうした負い目があるので、借り手(オーナー)に対して強くは出られないのだとの分析だ。今回の場合はとくに、オーナーが政界にごく近い筋だった。

 別のビル売買では、オーナーに対して裏金が渡るとともに、ビルのワンフロアが居住スペースとして提供された。その分、ビルの収益力は下がり、売買価格が安くなるので、銀行の回収資金も減ってしまう。ところが、これも銀行サイドは黙認したようだ。かつて、オーナーは銀行にとって最重要融資先だった。もし銀行が強引な取り立てを行えば、銀行にとって不都合な事柄を暴露されかねない。なんとも不思議な依存関係ができている。

 こうなってくると、不動産の価格とは何かを改めて考えさせられる。一物四価などと言われてきたが、見方によって五価にも六価にも七価にもなるのだ。国土交通省は不動産の売買価格情報の公開に乗り出そうとしている。情報を受け取る側は、「なぜその価格なのか」を冷静に判断する姿勢が求められる。日経不動産マーケット情報が、その判断の一助になれば……と考える今日このごろである。

(三上 一大)

※ここで挙げた事例については、間接的に取引にかかわった人に取材をしましたが、当事者からの裏付けは得られていません。その旨ご了承ください。