ずいぶん前のことだが、ロンドンに出張した時、「first floorに事務所があるから来てくれ」と言われた。てっきり1階にあるものだと思い、ビルの1階を見ながら所在地周辺をぐるぐると探し回り、見つからずに困ったことがある。英国では1階がground floorで、first floorは2階であることをすっかり忘れていたのだ。間抜けな話である。

 日本人にとっては米国式の「first floor=1階」の方がわかりやすい。しかし、よくよく考えてみると、地上から一つ下がったフロアは「地下1階」だ。地上を「0階(ground floor)」とみなし、地上から一つ上がったフロアを「1階(first floor)」としている英国の方が合理的だといえるかもしれない。

 全国各地で「地下室マンション」をめぐって住民とデベロッパーが対立している。地下室マンションとは、住宅の地下室の容積緩和措置を利用して傾斜地につくられたマンションのこと。横浜市戸塚区のケースでは、斜面上部を地盤面として玄関を設置することで、地上3階地下4階建てのプランを実現した。斜面の下側から見ると、まるで7階建てのように見える。この物件をめぐり争われていた裁判で、東京高裁は11月25日、一審に続いてデベロッパー側を支持する判決を出した。

 しかし、実際に見えている部屋を「地下」と呼ぶのは肌感覚に合わない。横浜市ではこうしたトラブルを避けるために、地下室マンションを規制する条例を検討しているそうだ。7階建ての建物のことを、英語では "a seven-story(storey=英) building" と言う。「7個の物語が詰まったビル」なんて、とても素敵な表現だ。もともとは、聖書を題材にステンドグラスを作製する時に、階層に分けて物語を表現したことに由来しているらしい。入居者は、それぞれ現在進行形の物語を抱えている。その物語を形式的にとはいえ、地下に潜らせてしまうのはいかがなものだろう。(三上 一大)