あるオフィス仲介会社の営業担当者が「風水でオフィス移転先を決める会社も、結構、多いんですよ」と打ち明ける。「最初から風水で決めることを教えてくれればいい。なかなか言わずに『これは間口が狭い。これは水回りの位置が使いにくそうだ』などと、違う理由で紹介したビルを否定されると困ってしまう」。

 1日に3、4件のオフィスを、数日にわたって精力的に見学した社長がいた。最終的に訪れた物件数は40件以上に及ぶ。ところが、数日後に「今回の移転は見送る」と連絡があった。「共用エントランスはやっぱり北東じゃないとダメだ」という理由だ。営業担当者は早く言ってくれれば、提案の仕方もあったのにと、思わずため息をついた。。

 別の不動産会社の営業担当者は、2年ごとの契約更新時に必ず引っ越しする顧客を抱えている。かつて、顧客の社長に理由を尋ねたら、「次の事業が上向く “方角”へ行くためだ」という答が返ってきた。この企業は、移転を繰り返するたびに借りる床面積が増えていく。風水を重視するのも分かると、営業担当者も納得顔だ。

(田辺 直子=フリーランス)