オランダ法人を使った課税回避策があることは、1年前のこのコラム(http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/NFM/members/column/column_k020617.shtml)で紹介した。当時、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどが不良債権ビジネスで生み出した利益(匿名組合配当)をめぐって、東京国税局から申告漏れを指摘されていた。つい最近も、人気ブランドのGAPやシティグループのディックファイナンス(現CFJ)が同様のスキームを使っていて追徴課税されるなど、海外への利益移転については国税局がますます目を光らせるようになっている。

 ケイマン諸島も例外ではなく、いくつかの銀行がケイマン支店における社債取引で得た利益について追徴課税を受けている。課税逃れやマネーロンダリングは国際的な課題であり、OECD(経済協力開発機構)が各地のタックス・ヘイヴン(租税回避地)に対して、税制度の見直しを迫っている。ケイマン諸島は2005年までに「透明性」と「実効的情報交換」を実現することをOECDに約束させられた。

 その影響が日本の不動産投資にもじわじわと表れ始めた。不動産投資においては倒産隔離(関係者の倒産から投資スキームを守るための措置)のためにケイマンに特別目的会社(SPC)をつくることがよくある。しかし、ある投資会社のアセットマネジャーは「最近はケイマンにSPCを設立しようとすると『日本での事業プランを提出しろ』とか『役員のプロフィールを出せ』とかうるさく言われるようになった。昔はもっとおうようだったのに・・・」と嘆く。またある銀行のローン担当者も「提出書類が煩雑になり、コストも時間もかさむようになった。ケイマンSPCに代わるスキームに乗り換えていく」と語る。

 ケイマンSPCに代わるものとして注目を集めているのが、国内に設立する中間法人だ。2002年4月にスタートした新しい法人制度で、非営利かつ非公益の団体であっても法人格を与えるというもの。社員の債務支払い責任が限定的な有限責任中間法人の場合、定款や役員をそろえ、最低300万円を基金として用意すれば設立できる。これを不動産投資スキームに利用するケースが徐々に出てきている。果たして十分に倒産隔離ができるのか、使い勝手はどうか、利用上の注意点はあるのか--。こうした点について、近いうちに検証してみたい。

(三上 一大)