この秋、介護付き有料老人ホームを併設した超高層の賃貸住宅「サンシティ銀座EAST」が誕生した。広告の「銀座を楽しむ」の文字に興味を引かれてでかけてみると、超高層の足元はもんじゃ焼きの街だった。住所は中央区月島3丁目、最寄り駅は地下鉄の勝どき駅だ。銀座の名が隅田川を渡ったことに、ちょっとした違和感を覚えた。

 ここ数年の間に取引された建物をみると、銀座でもないのに、この種の「銀座の東の方」に由来する名称が多いことに気づく。「メゾン・ド・ヴィレ銀座東」は新富1丁目、「ニューシティレジデンス銀座イーストIII」は入船2丁目、「パシフィックリヴュー銀座東」は湊3丁目、「フォレシティ銀座イースト」は築地1丁目にある。銀座の東がどこまでも続く。一方、「銀座の西」を用いた建物はなかなか見あたらない。おそらく、有楽町や新橋といった開発の進んだオフィス街が壁となって進出できないのだろう。

 建物名の銀座ブームは以前からあったことなのだろうが、投資対象として不動産が取引されるようになって、いっそう広がってきたように感じる。入居者だけでなく、投資家というPR先が登場したのだ。確かに、日本をあまり知らない外国人投資家が、ポートフォリオの中に「GINZA」を見つけたら、親近感をもつかもしれない。

 でも、大方の人がそう感じるかどうかは疑問である。住所が銀座ではなく最寄り駅も銀座ではないのに銀座を冠した建物に住んだら、親しい友人たちから「ここが銀座か?」と突っ込まれるに違いない。そのときは「いや、東の方という意味だからウソじゃない……」と言い返すのだろう。個人的には、ブランド力のある地名にあやからずに、本来の地名または最寄り駅名を付けた建物の事業者に潔さを感じる。当然のことだが、大事なのは名前ではなくて中身である。荒川を越えて浦安あたりの建物まで、「銀座イースト」と名乗らないことを願っている。

菅 健彦