「鑑定評価額に基づいて物件を取得していれば、利益相反を疑われることはない」。REIT(不動産投資信託)関係者から、こうした言葉をたびたび聞いた。しかし、鑑定評価そのものを操作することができるとすれば、まったく説得力のない言葉になる。

 2月14日、DAオフィス投資法人の運用会社であるダヴィンチ・セレクトに対して、証券取引等監視委員会が行政処分を勧告した。鑑定評価を取得する際の手続きに不備があり、本来よりも高い価格で物件を取得していたことが善管注意義務違反にあたるとした。問題を指摘された5物件は、すべてスポンサー企業のダヴィンチ・アドバイザーズのファンドから取得している。REITにおける「利益相反」の危険性を浮かび上がらせた意味で、今回の事件が不動産投資市場全般に与える影響は大きい。

 処分勧告が出た翌日のREITの株価(投資口価格)は、一部の銘柄を除いて軒並み下落した。特に、私募ファンドの運用会社がスポンサーになっているREITの下落が目立つ。少なくとも現時点では、投資家からREITの利益相反の危険性や法令順守体制への疑念が市場関係者に強く投げかけられていると言える。

 今回の事件がダヴィンチ・セレクトの単なる過失に基づくものだったとしても、運用会社が提供する資料によって鑑定評価額が容易に変わることがあらためてはっきりした。利益相反対策や法令順守体制を重視する投資家には、これまで以上に説得力のある説明が求められる。もはや、利益相反対策として、「鑑定評価に基づいた物件取得」を錦の御旗として掲げられなくなった。

 5物件のうち上場時に取得した3物件は、すべて同じ鑑定会社が評価を担当していた。鑑定会社にとっても、この問題が与える衝撃は大きい。おりしも、国土交通省と日本不動産鑑定協会によって、証券化対象不動産に対する鑑定評価基準の実務指針の作成が進みつつある。今回のような事件の再発をいかに予防しているかを示して、鑑定への信頼を取り戻すことが急務となっている。

徳永 太郎