先日、興味深い話を聞いた。ドイツのベルリンで不動産投資に乗り出したクリードは、築100年以上の集合住宅を積極的に取得しているという。築浅物件、新築物件を尊重する日本のファンド運営会社のなかでは異例の行動だが、なんでも、現地ではそうした古い住宅の方が人気があるという。郷に入れば郷に従えと言うことか。写真を見れば、建物には歳月が醸し出した独特の雰囲気があり、人気があるのも納得できる。

 ひるがえって日本をみると、住宅でもオフィスでも、一般に古い建物には人気がないようだ。国土交通省の調査によると、日本で取引される住宅のうち、中古住宅が占める割合は全体の13%しかない。米国で77%、英国で89%の住宅取引が中古であるのと比べるといかにも大きな差である。高層マンションを中心とした新築ラッシュで、昔ながらの東京の街並みが急速に失われていくのは寂しい。

 筆者は、「スクラップ・アンド・ビルド」を基本とする木造文化で育った日本人の気質が理由と考えていたが、最近、これに関して別の説得力ある論考をみつけた。都市開発を社会学的な観点で分析した、平山洋介著「東京の果てで」(NTT出版、2006年)である。この本を読むと、政府が持ち家建設の促進を景気刺激策として推し進めた結果、国内で住宅の過剰供給が常態化し、中古住宅が競争力を失っていく様子が分かる。

 住宅建設は好不況を問わず、低利での公的融資や容積率の緩和といった政策で促進され、市場には大量の新築住宅が供給された。一方で中古物件が省みられることはなく、住宅の価格は竣工時点をピークとして急落するのが決まりになった。例えば東京圏では、公庫融資を伴う新築マンションの平均価格が1991年に5579万円だったが、2003年になり、10年以上経過したこれらの物件は平均1911万円まで値下がりした。家の持ち主は膨大なキャピタル・ロスを抱え、中古住宅の再生に対する投資はおろそかになった。こうして、「住まう行為の積み重ねが住まいの価値を高め、年月の経過が建築の価値に転化するという関係がみられない」(同書)市場が形成されてしまったわけだ。

 都心で続々と建設される高層マンションは、流行のデザインを身にまとっているがゆえに、かえってはかなさが感じられる。そろそろ、国内でも中古住宅への投資が見直されて良いのではないだろうか。個人的には、東京R不動産で紹介されているような、古く味わいのある物件のほうに魅力を感じるのだが。
 

本間 純