明治通りを渋谷から原宿に向かって歩くと、右手に氷山のようなビルが見えてくる。ヴェロックスの「The Iceberg」だ。その向かいには、子供の頃にテレビで見た“未来の家”のような建物が建っている。エルカクエイが開発を手がけた「b6」だ。明治神宮前の交差点を左に曲がり、表参道まで出るとやはりガラス張りの「ZARA表参道」が建っている。奇抜な外観も、個性の強い街、原宿・表参道にあるだけにあまり違和感がない。

 昨年末、青山エリアで「パシフィックスクエア宮益坂上」というオフィスビルが完成した。その近くでは、シンプレクス・インベストメント・アドバイザーズが、賃貸オフィスビルの「青山プロジェクト(仮称)」の建設を進めている。いずれも開口部に特徴を持った、独特の外観をしている。これは青山や渋谷エリアでしか成立しない賃貸オフィスビルだろう。これが日本橋や京橋など老舗のオフィス街に完成したら、テナント確保に苦労するのではないだろうか。

 ビルの開発には、その街にあった戦略がある。

 先日、アールプロジェクトが代官山駅近くで開発を進めている「猿楽町プロジェクト」を取材した。代官山エリアにあるものの、袋小路になっている場所で人通りが少なく、商業施設の開発には一見、不向きな土地に思える。人通りが少ないというマイナス面をカバーして、どうやって買い物客を引き込むのか、その戦略を聞いた。

 同社が採った戦略は、「代官山の中に、小さな代官山をつくる」というものだ。袋小路の土地に、地上2階地下1階建ての小規模な商業施設6棟を並ばせたうえで、テナント構成も含め代官山全体の縮図をつくり上げるという。代官山に来る買い物客なら、路地の奥の方にある多少不便な立地でも、お気に入りの店を探しに足を運ぶという読みだ。このプロジェクトも土地の特性に合わせた戦略と言えるだろう。

田村 嘉麿