3月末から4月初めにかけて、不動産業界は最も多忙な時期を迎える。仕掛かり中の契約をまとめて今年度の業績を確定するために、会議に出張にと飛び回っている担当者が多いのだ。編集部にも続々と物件取得に関するプレスリリース(発表資料)が舞い込み、内容確認や記事執筆に追われる我々も忙しくなる。

 ところで、こうして数多くのREIT(不動産投資信託)の発表資料を読んでいると、各投資法人によって数字の意味合いが異なることが気になる。一口に「NOI利回り5%」と言っても、その中身はバラバラなのだ。例えば年間NOI(純利益)については、(1)過去の運用実績、(2)投資法人が想定した値、(3)鑑定評価書から抜粋した値、の3種類が使われている。このうち(2)は評価時点から1年間の値を、(3)は評価時点から10年間の平均値を指す場合が多い。

 なかでも解釈に困るのは、上記(3)の、鑑定評価書から抜粋したNOIである。物件の評価を担当した鑑定士がそのエリアの不動産市況に対して強気の見方をしているのか、弱気なのか、どの程度の賃料上昇を見込んでいるかによって鑑定評価額や利回りは大きく変動する。鑑定評価書に記載されているはずの判断過程を一切省き、数字のみを羅列している今の鑑定評価サマリーでは、投資家に物件取得の正当性を説明する材料として不十分だ。

 試しに、物件取得に関するREITの発表資料を、2年前と直近の各30件ずつ調べてみた。すると、鑑定評価サマリーを掲載した発表資料が4件から20件へと5倍に増えた反面、過去の運用実績データを掲載する発表資料は11件から7件へ減少したことがわかった。物件取得の決定に対する“お墨付き”として鑑定評価を重視した結果とも解釈できるが、筆者が取材したあるREITの運用担当者は別の事情を明かしてくれた。「売買価格が高騰した現状では、今後の賃料上昇を織り込んで物件を取得することもある。過去の運用実績を開示すると投資家の期待に添えない利回りとなり、誤解を生む」とのことだった。

 投資口価格と分配金にしか興味がないという投資家も多いだろうが、読者諸兄の間では、個別物件の収支がREITの価値の源泉であり、投資判断の重要な材料であることに異論はないだろう。運用会社の間で、鑑定評価サマリーという、形ばかりのお墨付きさえ添付すれば良しとする風潮が広がっているとすれば残念だ。相次ぐ行政処分で傷付いた市場への信頼を取り戻すためにも、各社に一層の情報開示を求めたい。

本間 純