鑑定評価をめぐってREIT運用会社への行政処分が下されたばかりの時期に、実に大胆な判断をしたものだ。3月23日に、日本ビルファンド投資法人(NBF)が中野坂上サンブライトツインを追加取得した件だ。修繕積立金を除いた取得価格は約312億円。鑑定評価額の216億円を95億円も上回り、鑑定評価額の約1.5倍の価格で取得した。

 NBFの開示資料から計算すると、ビルの月額賃料は1坪あたり約1万8000円の水準にある。NBFは、西新宿・中野坂上エリアの成約賃料水準に比べて中野坂上サンブライトツインの賃料水準がかなり低いことから、今後の賃料改定などによって収益の増加が見込めると判断した。

 もともとNBFはビル全体の30%にあたる共有持分を持っており、今回の追加取得で所有割合は約80%まで高まった。共有持分は一般の所有権に比べると流動性に劣る。ビルの所有割合を拡大すれば、流動性が高まるだけでなく、管理コスト単価も抑えられる。売り主の都市再生機構は、ビルの売却にあたって入札を実施した。いずれ1棟全体を所有することを視野に入れると、他の会社に取得されないように高値で購入しても十分におつりが出るとの判断もNBFにはあっただろう。ある投資家も「取得価格には合理性が認められる」と話していた。

 取引を発表した後も投資口価格は下落していないことから、投資家は今回の取引を認めているとの見方もできる。それに資産規模が大きいNBFだからこそ、投資家も納得しやすかったのではないか。取得価格と鑑定価格の差額である95億円は、NBFの資産規模約7000億円(取得価格ベース)の1.3%にすぎない。取得金額にもよるが、資産規模が小さいREITが同じことをすれば投資家から強い異議が出た可能性もある。

 NBFも、さすがに利害関係人との取引では、ここまでの判断はできなかったはずだ。鑑定評価を上回る水準で取引しても、投資家が納得できるだけの事情があり、詳細に説明できれば構わない。とはいっても、投資家離れが起きるリスクを考えると、どのREITだってなかなか踏み込んだ決断はできない。そのような取引が出たときには、取得価格の正当性を証明できるのが「鑑定評価」しかない現状の是非について、議論を深めるきっかけになる。

徳永 太郎