少し前の新聞記事で、ある百貨店が「声かけを控えるサービス」を始めたと知った。かねがね、「声かけ」をはじめとして、店舗・小売業のサービスは少々過剰ではないかと思っていたので、まずは好ましいことだと感じた。日本を訪れる外国人旅行者の多くは、きめ細かな日本型のサービスに感激するそうだが、なかには客に対してまるで奴隷のようだと驚く人もあると聞く。

 この百貨店の例も、あくまでも接客サービス向上のための一手法であって、百貨店側の合理化を目的としているわけではなさそうだ。消費者側についても、手厚いサービスを当然だと思い、さらなるサービスを要求するようになったと思う。ディスカウントストアで、つい百貨店並みのサービスを期待したり、果ては過度な要求を通そうとするクレーマーが出現したりという具合だ。ここのところの過当競争がサービス合戦のエスカレートを招いたとみられる。行き過ぎたケースを見聞きすると、日本型のサービスも、持ち味は損ないたくないが、再考する時期に来ているのではないかと考える。

 目を転じて、オフィスビル業におけるサービスはというと、ビル管理やプロパティマネジメントなどの一部分に紛れてしまい、サービスだけを直接取り上げる機会は少ないように思う。良いオフィスビルの条件を語るうえで、立地条件とビルスペックのウエイトがあまりに大きいことが一因だろう。しかし、新築ビルのスペックがいずれも高度化を極めつつあるなか、ひと味違ったサービスを売りにするビルがあってもいいのではないかと思う。

 例えば、日常的な利用に関する届出や連絡に広くインターネットを活用するなど、ITの力によって利便性と合理性をもっと高められるのではないか。あるいは、テナントに対して、防災・警備や環境対策をわかりやすく情報開示して参加意識を高めるなど、対人ならではの働きかけを工夫できないだろうか。ただ人手をかける一方ではなく、メリハリを効かせたサービスのイメージだ。バブルのころ、ホテル並みのサービスを売りにしたオフィスビルがあったが、サービス過剰との反応が多く、うまく稼働しなかったと聞いた。こんなところにも、ヒントがありそうだ。

橋本 郁子=不動産アナリスト