サブプライムローン問題の影響が深刻になった昨年11月、日本経済新聞に早稲田大学客員教授の久恒新氏による「サブプライム問題とリスク評価」という論文が掲載された。サブプライムローン問題の本質はリスク評価が不適切だったからであり、証券化に原因を求めるのは誤りだという内容だった。まったく、その通りだと思う。

 この3月、不動産業界では大きな事件が相次ぎ、証券化をはじめとする不動産投資ビジネスの先行きを不安視する向きが出ている。3月4日に、スルガコーポレーションが取得した物件で、立ち退き交渉を行っていた光誉実業の社員が逮捕された。3月20日には大阪の不動産会社のレイコフが、大阪地方裁判所に民事再生手続きを申請している。これらの事件は、不動産投資ビジネスやファンド事業という手法に問題があったのではなく、暴力団とのつながりやホテル事業へ過剰に投資した結果が招いたものだ。

 国内外の投資家による日本の不動産への投資意欲はまだまだ根強いものがある。先日、ラサール インベスト マネージメントは日本の不動産投資市場に関する説明会で、「日本の不動産市場は長期的にみて堅調であり、幅広い投資機会がある」との見通しを明らかにした。金融機関による不動産融資の審査は厳格になっており、資金を調達できないケースが増えているのは事実だ。しかし、事業を遂行できる社内体制を持ち、良質な不動産投資物件を用意できれば、ローンもエクイティも集まる。

 とはいえ、今後、もう一つのハードルがクローズアップされるだろう。昨年9月に施行された金融商品取引法だ。半年間にわたった法の経過措置期間が切れて、4月以降に不動産証券化などに携わるには、原則として金融業者としての登録が必要になる。法への対応が、投資ビジネスを進める上での大きなハードルとなっていることは否めない。ただ、久恒氏は先の論文のなかで、金融商品取引法について「幼年期にある不動産証券化産業の市場の欠陥を、政策で補おうとする『経済的規制』である。『市場に水を差す』などの批判が出ているが、これに過剰に反応し取引が減少したり、保守化へ走ったりしては本末転倒だ」と指摘していた。

 日経不動産マーケット情報では、金融商品取引法が実務に与える影響などを解説した書籍「基礎から学ぶ 不動産実務と金融商品取引法」を4月に発売した。著者は「基礎から学ぶ 不動産投資ビジネス」を書かれた田辺信之氏だ。監修は長島・大野・常松法律事務所の田中俊平弁護士にお願いした。書籍の編集を担当した我々としては、「金融商品取引法のハードルをやすやすと乗り越えて、不動産ファンドの組成や不動産投資ビジネスの展開に積極的に取り組んでほしい」との思いをこめた。 

(徳永 太郎)