不動産投資マーケットが調整局面を迎えるなか、三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部は2008年3月に書籍「不動産マーケットはこうなる」(日経BP社)を出版した。書籍を通じて、今回の調整がデットを中心とした資金面から起きていることを再確認できる。今後のマーケットを読む上で特に重要となる海外資金の流れについて、書籍のなかから抜粋して寄稿いただいた。5回にわたって連載する。

第1回 厚みを増す海外資金~~クロスボーダー取引の動向

図 日本の不動産に対する資金流入のイメージ

 日本の不動産マーケットにおいて主要な投資資金の担い手となった海外資金は、1990年代後半から本格的に日本の不動産に流入し始めました。当初はグローバルな資金や北米の資金が多かったようです。これらの資金は、比較的ハイリスク・ハイリターンを狙うオポチュニスティック型の投資資金が中心でした。また、シンガポールや香港の資金も比較的早い時期に日本への投資を始めていました。2000年以降は欧州資金も流入してくるようになりました。欧州資金は、欧州と相関の低い日本の不動産に投資することにより、ポートフォリオのリスク分散を図る目的で日本に投資する資金が多いようです。

 オーストラリアでは2005年4月に、日本の不動産に投資することに特化した豪州REIT(LPT:Listed Property Trust)が上場しました。オーストラリアでは1990年代後半以降、段階的に退職年金への掛金引き上げが実施され、年金の運用資金が飛躍的に拡大しているという現状があります。その資金の1割弱が不動産投資に向かっていると言われ、これがLPT市場の成長を支えているようです。オーストラリアやニュージーランドなどのオセアニア地域では投資資金に対して物件数が不足していると言われていることから、投資対象は海外に広がっています。日本特化型のLPTは、現在では4銘柄、日本への不動産投資実績は4000億円以上あります(2008年1月現在)。

 このような欧州資金や、豪州REIT資金は長期安定的な投資を目的としたコア型資金が多くなっています。

 中東資金による日本の不動産取得の事例は、例えば、2005年にバーレーンのアルキャピタ銀行がシンガポールのキャピタランドとイスラム法に基づく合弁ファンドを設立し、日本の不動産へ約262億円の投資をした事例があります。中東資金が日本の不動産投資マーケットに流入する事例は、その多くについて情報開示がなされていないものの、日本の不動産投資マーケットにも確実に流入していると考えられます。中東資金については、直接日本の不動産を買い付けに来るというよりは、ヨーロッパその他に運用委託された中東資金が一部日本への不動産に充てられているケースが多いようです。

 日本の不動産に流入する資金は、グローバル・ファンド、アジア・太平洋、北米や欧州の資金など多国籍化しています。またその資金の性質も、オポチュニスティック型資金に加えて、コア型資金やバリュー・アデッド型資金の流入も見られます。投資金額という量的側面だけではなく、投資資金の国籍や求めるリターン・リスクという質的側面から見ても、今後、日本の不動産投資マーケットに厚みが増すことが期待されます。