カンヌ映画祭と同じ会場で開かれるMIPIMだが、その期間に消費されるシャンパンは映画祭のそれをはるかにしのぐという。不動産業界のトップや有名建築家に加え、今年は大物政治家の参加が増えた。不景気の波を受けながらも、社交場としての地位は揺らいでいないようだ。以下、過去7年間にわたり同イベントを取材してきた、ライターの篠田香子氏の寄稿を連続でお届けする。



 MIPIMを主催する仏リード・ミデム社が3月13日に発表した参加者数は、最終的に約1万8000人。対前年比で35%減となった。ティエリー・ルノー副社長は、「人数は絞られたが、決裁権を持つ人々による真剣なビジネスの場となった。また、近年優先されていた金融工学から、不動産の基本に立ち返ることが見直される場になった」と、厳しい経済環境の中でのMIPIMを語った。

 2002年以来、私はMIPIMを毎年取材し続けてきた。見本市会場の大掛かりな展示に、様々な都市の盛衰を実感し、地球規模のドラマをまのあたりにするのは面白い。参加者の7割以上がリピーターであるため、旧知の仲も多い会場内は紳士クラブ風の雰囲気も漂う。出展ブースの大半には工夫を凝らしたバーカウンターが設けられ、随所で情報交換と商談が行われている。



ブース内のバーカウンター。



活発な情報交換が行われている。



 しかし、MIPIMの真の価値は、水面下で行われるネットワーキングが生み出すビジネスだ。

 税込み約1700ユーロの登録料と引き替えに、参加者にはバッジと全参加者のリストが手渡される。このデータを基に、事前にターゲットを絞った綿密なアポをとり、そのフォローアップを行ってこそ、ビジネスにつながるネットワーキングが構築されてゆく。厳しい環境にあった今年のMIPIMでは、お祭り騒ぎだけではない、真剣な話し合いが行われていたようだ。そして、昨年まで会場に漲っていた金融の力が薄れ、代わって政治の力の台頭を感じた。



ロシアのドミトリー・コザック副首相。


 今年はプーチンの懐刀ともいわれているロシアのドミトリー・コザック副首相をはじめとする、大物政治家の参加が増えた。コンファレンスでは、欧州を中心に200の自治体からの行政担当者と80人の市長が集まり、経済危機の中で都市経済の活性化を図るための討論が行われた。MIPIMはファンドやデベロッパー、ホテルチェーンなどから投資を呼び込むために、世界の政府、自治体関係者が集う場にもなっている。ノーマン・フォスター、ザハ・ハディド、フランク・ゲーリー、トム・メインといった大物建築家の姿が見られるのもMIPIMならではの光景だ。

 世界はこれからどこに向かっていくのか。先の見えない時代、MIPIM参加者の多くは共通の思いで、紺碧の地中海の水平線を望んでいた。



海辺のレストランはMIPIM参加者で満員




(篠田香子=フリーライター、写真共)