民主党代表選の報道がかまびすしい。円高・株安の最中における政治的空白を懸念する声もあるが、まずは党首脳が密室政治への誘惑を退け、オープンな政策論争の機会を選択したことを素直に評価したい。

 菅直人首相については、政権担当以来2カ月間の、経済・金融分野での無策を非難する声が社説やブログにあふれている。しかし、郵政・農業票目当ての露骨なバラマキ政策を主導してきた小沢一郎氏への批判はそれ以上だ。どちらの代表候補も大きな政府を志向する点で共通するが、小沢路線の修正に少しでも期待をかけるなら役者は菅氏しかいない。勉強熱心な彼のこと、政策面で本領を発揮するのはこれからと信じよう。

 これまで、国内外のメディアが菅氏の人物評をさまざまに取り上げてきた。市民活動家出身で、東京郊外の武蔵野市に住み、庶民派としての側面がよく知られている。国会答弁で時折見せる気の短さとは対照的に、政治家としては忍耐強く振る舞い、こつこつと政策提案を積み重ねて小政党から政治の頂点へと上り詰めた。1996年の薬害エイズ問題では厚生大臣として硬直した官僚組織に乗り込み、その怠慢を明らかにして国民の喝采を浴びたのはご存じの通りである。

 ところが、菅首相が土地政策について学者顔負けの専門家であったことは、あまり知られていないようだ。

 筆者の手元に、彼の3冊の著書がある。一冊は1987年に発行された「土地問題への提言とQ&A」(IPC)だ。当時41歳だった菅氏は、在籍していた社会民主連合の政策担当者として、社会党、公明党、民社党の議員とともにこの本を共同執筆している。二つ目は、菅氏の主張をストレートにまとめた1988年末の「新・都市土地論」(飛鳥新社)。そして三つ目は、国会での質疑応答を360ページの大著にまとめた「国会論争『土地政策』」(1992年 新評論)である。運が良ければ今でもAmazonの古本検索サービスなどを通じて入手できる。


「土地問題への提言とQ&A」IPC 1987年
「新・都市土地論」 飛鳥新社 1988年
「国会論争『土地政策』」 新評論 1992年


 本の発行当時はバブル経済が頂点を迎えつつあった時期であり、ページの多くは地価高騰対策に割かれている。ただし元活動家、野党政治家というプロフィールから想起されるイメージとは異なり、菅氏は金持ち憎しの感情論に陥らず冷静に議論を展開していく。

 特に「新・都市土地論」には、物理学科の出身者らしく理路整然とした主張が数々の統計データとともに並べられ、彼の政策通としての一面を垣間見ることができる。孫文が作った台湾の土地制度を自らの足で調べ上げるなど、昨今のゴーストライター頼みの政治家本とは一線を画する力の入れようである。