「オーナーから受けているサービスとして、入居しているビルでは契約面積のおよそ2倍の面積を実際には使用している。ただし、賃料は契約面積分しか支払っていない」。賃貸オフィスの借り手市場が鮮明となった2003年ごろ、激化するテナント誘致合戦の実態を取材するなかで、ある企業からこんな話を聞きました。そんなサービスまでしているのかと驚くと同時に、契約更新の際にはどうなるのだろうと心配になった記憶があります。

 ビルに入居する際、賃料値下げのほかにオーナーから受けるサービスとして一般的なのは「フリーレント」(賃料の支払い免除)でしょう。本誌の調査では、2000年~2003年に移転した企業のうち、フリーレント期間の設定を受けたテナントの割合は約20%~40%でした。同じく借り手市場と言える2009年~2011年になると、この割合は約60%に達しています。テナントに提供するサービスは引っ越し費用や内装費の負担など多岐に渡りますが、いまはサービスが多様化するというよりフリーレントに集約されつつあるようです。

 このほか、オフィスビルにおける賃貸借契約の様々な実態が、日経不動産マーケット情報が7年ぶりに実施した大規模なアンケート調査で明らかになりました。テナントの支払い賃料水準やビルへの評価、移転意向など、オフィス市場の現実を約1000ページに及ぶ「テナント調査報告書2012」としてまとめて、9月25日に発行します。本誌では10月号と11月号で調査のサマリーを掲載します。10月号は賃貸借契約の実態を読み解く「現状分析編」です。

 「テナント調査報告書2012」には付属のデータも充実しています。都内主要ビル約540棟のテナント全リストのほか、2003年と2005年当時の主要ビルテナントリストも収録しました。また、2002年から2012年7月までに、本誌ウェブサイトで報道してきた企業の移転事例を一覧表にまとめました。本誌創刊以来、10年間にわたって集積した延べ2300社の移転事例をエクセルデータで提供しており、オフィス移転の動向を分析するうえで貴重なデータになると思います。ぜひ、ご活用ください。

 10月号には、オフィス市場に関する本誌独自の分析記事として「中規模オフィスビルの開発動向」も掲載しました。東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)でこれから完成する延べ床面積3000m2以上1万m2未満のビルを調べたところ、現在、57棟の計画が進行していることがわかりました。このクラスのビルには大規模ビルとは違った独自のニーズがあり、ビルの性能、スペックも急速に向上しています。ウェブサイトには中規模ビルの詳細な一覧表も掲載しました。

 売買レポートはオリナスモールや中央大和ビルなど20事例を掲載しています。オフィス移転・賃料調査は千代田区と区部東地域(江東区湾岸エリア、錦糸町駅、上野駅周辺ほか)を取り上げました。

徳永 太郎