不動産投資のプロが集う場であり、世界の大規模都市開発プロジェクトの見本市でもあるMIPIM。8回にわたった連載レポートの最後は、ライターの篠田香子氏による展示会場のレポートをお届けする。

韓国:官民で2兆4000億円を投資、高さ485mのタワーも

 昨年は地味だったMIPIMの展示会場だが、今年は人目を引く大型プロジェクトがいくつも登場した。サッカーやオリンピック関連の大型スポーツ施設もあったが、何と言っても一番の注目を浴びたのは、韓国・ソウルのヨンサンIBD(Yongsan IBD = International Business District)だ。

説明員の声にも熱がこもる

 計画はソウル中心部、漢江河畔の龍山(ヨンサン)地区に位置する米軍基地跡57万m2に、オフィスを中心に住宅、商業施設、ホテルなど30棟のビルを築くもの。その目玉となるオフィスタワーの高さは485mで、現在世界にある高層ビルと比較すると、ドバイのブルジュ・ハリファ、台北101、森ビルの上海ワールドフィナンシャルセンターに次ぐ第4位となる。今年3月に周辺インフラからプロジェクトを着工し、全てが完成するのは2016年末を予定している。

 2008年のコンペでマスタープラン設計を勝ち取ったのは、ニューヨークのワールドトレードセンター(WTC)再開発の設計も手がける米国の大物建築家、Daniel Libeskindだ。彼は今回、自ら仏カンヌの会場に赴き、新羅王朝の文化をモチーフにしたデザインやコンセプト、プロジェクトの概要(リンク)などを投資家ら150人に向けて熱く語った。

 来場者の度肝を抜いたのは、28兆ウォン(2兆4000億円)というその予算規模。しかも絵空事ではなく、出資が約束された数字だ。韓国鉄道公社(KORAIL)が25%、ソウル市開発公社(SH Corporation)が5%を負担し、残りは民間企業30社が拠出する。サムスン、ヒュンダイ、ロッテといった財閥企業に加え、米プルデンシャル・リアルエステートも7.7%を出資する。

 一昔前に通貨危機を脱したばかりの韓国経済の動向が気になるところだが、官民共同企業体Yongsan DevelopmentのJoshua Kimシニアマネージャーは、「韓国経済は2009年後半から回復基調にあり、2010年は4~5%のGDP(国内総生産)成長が予想されている。2009年でさえ8億5000万ドルの民間資金が集まった」と胸を張る。今回のMIPIMを機に、テナントやホテルオペレーターといったパートナー企業の獲得に弾みを付けたい考えだ。ブースにひしめいていた営業部隊の威勢の良さも、韓国の国家予算の1割に値する“商品”を売る自負と気負いゆえか。

シンガポール:マリーナ・ベイ計画は着々と前進

 MIPIMでは例年、官民一体となって大型展示を行っているシンガポール政府のURA(Urban Redevelopment Authority)。金融業界への依存度が高いシンガポール経済は危機の影響を免れなかったが、都心に隣接するベイエリア開発プロジェクト、MARINA BAY(マリーナ・ベイ)はほぼ予定通り進行した。345万m2のオフィススペースを中心に、住居、店舗、ホテル、カジノ、100haの緑地帯などから成るプロジェクトだ。

プロジェクトの進行が手に取るようにわかるマリーナ・ベイの模型

 「ファンダンメンタル面における政府の適切な対処と民間企業のチームワークにより、シンガポールは危機を乗り越えた。2010年には5~6%の経済成長が見込まれている。マリーナ・ベイもそれに貢献できるはず」と、政府のMarina Bay Development Agency担当者、Jason Chenシニアマネージャーは語る。

 マリーナ・ベイの主要プロジェクトで唯―、半年だけ遅れた米ラスベガス系資本のカジノホテル、マリーナ・ベイ・サンズも4月下旬に完成する。3棟の超高層ビルを最上階の空中庭園がつなぐ、ユニークなデザインのビルはすでに地元の話題となっており、6月下旬のグランドオープンが待たれている。「マリーナ・ベイの完成でシンガポール都心のビジネス街は香港のセントラル地区を凌ぐ規模になる。24時間眠らないビジネス、レジャー、生活の場だ」(Chen氏)。日系企業としては現地に本社を置く鹿島子会社、カジマ・オーバーシーズ・アジアがプロジェクトに加わっている。

 観光客の誘致を最重要政策と位置づけるシンガポールでは、郊外のセントーサ島でもカジノが開業した。マカオに流れる観光客を呼び込む狙いだ。MIPIMでの活気ある展示を見ても、他のアジアの都市に対する競争意識の高さが感じられる。一方、東京へのオリンピック誘致をめざし、昨年まで官民で出展していた日本ブースは今年撤退。展示会場でのプレゼンスは限りなく薄い。

フランス:欧州最大規模の都心開発に挑むユネスコ古都、リヨン

 パリの南東約450kmに位置するフランス第2の都市リヨン。華やかなパリの前に影が薄くなりがちな同市は、昨年に続いてMIPIMに出展し、これを機にイメージアップを図る。1万8000人のMIPIM参加者全員にロゴ入りショルダーバッグを配る力の入れようだ。展示ブースでは、欧州でも屈指の規模といえる大型再開発の進展ぶりを、Gerard Collomb市長自らがプレゼンした。

会場でプロジェクトの詳細を説明するGerard Collombリヨン市長(右)

 リヨンはグルメの地として知られてきたが、歴史的建築が点在する旧市街地の広範囲な一帯が2000年にユネスコ世界遺産に認定され、観光地としても注目されるようになった。オフィスや住宅、レジャー施設などからなる開発プロジェクトの「Confluence」は、この古都の中心部、元は倉庫や鉄道用地となっていたローヌ河の中洲に計画されている。このほど、全体で70haの敷地のうち、フェーズ1にあたる41haが完成した。総投資額は11億6500万ユーロ(約1500億円)。市や政府が4割、民間が6割を拠出する。これからフエーズ2の35haの工事に入り、2015年に完成予定となっている。

 市長は「投資プランを重視した確実な計画を進めている。リヨンはアルプス山脈と地中海を結ぶローヌ河畔とにあり、昔から要衝の地として栄えてきた。パリからリヨンに移る企業も増え、人口も増加しているため、都心部の開発には大きな需要がある」と語った。

 絹の交易などで昔から富を蓄えてきたリヨンには「福は隠し持て」ということわざがあり、自らの財産を公にするのを嫌う傾向があるという。しかし、グローバル化が進み都市間競争が激しくなるにつれ、保守的なリヨンも都市の広報活動に力を入れるようになった。そのための絶好のプラットフォームとしてMIPIMを活用していく姿勢だ。



ポーランド:欧州唯一のGDP成長国からは参加者が5割増

 参加者が429人と、昨年に比べ5割強も増えたのがポーランドだ。2012年に欧州サッカー選手権開催を控え、各都市、地方が個性的な大型展示を行った。MIPIM主催者の仏Reed Midemも、同国を今年のカントリー・オブ・オナー(名誉国)に据え、感謝の気持ちを表した。

国立スタジアムの写真を背景に説明するワルシャワ市のKochaniak副市長(中央)

 加盟国がおしなべてマイナス成長に陥った2009年のEUにあって、ポーランドは唯一、1.7%とプラスのGDP成長率を記録した。政治・経済の安定を背景に若く教育レベルの高い国民に恵まれており、政府は2010年もプラスのGDP成長率を予測している。

 展示ブースの説明担当者にプラス成長の背景を聞くと「借金を嫌う国民性に支えられた堅実な銀行体制」という答え。「GDP成長は結果にすぎないが、ポーランド人に自信を与える成果となった。スタジアムはどれも予定通り建設が進んでいるが、インフラなどの都市開発では外資の協力を仰ぎたい」。

 総面積20万m2余、5万5000人の観客を収容するワルシャワの国立スタジアムを展示したブースには、上着を脱いで終日熱心に来場者に応対している一人の男性がいた。ワルシャワの女性市長に代わってMIPIMに出席した、Yaroslaw Kochaniak副市長自身であった。



ロシア:注目集めた地方の展示

 ロシアからは、今年も1134人が大挙してMIPIMに参加した。モスクワやサンクトペテルブルグ、2014年冬季オリンピック開催地のソチがあるクラスノダール地方などが大型の展示ブースを構え、会場の内外で独自のロシア人コミュニティーを築きつつある。聞けば「ロシアは広いし、官僚主義の名残でなかなか要人のアポがとれない。モスクワにいくよりカンヌで会う方が簡単だし、楽しいからね」とのこと。ロシアからの参加者が急増したのは3、4年前。風光に恵まれた地中海沿岸の別荘購入に向けた視察も兼ねているという。

一番の注目を集めたロストフ地方のブース。気球には「CRISIS PROOF」の文字が

 サステイナビリティを意識し、自然な色あいの展示が増えたのが今年のMIPIMの特徴だが、ロシア南部、黒海沿岸に位置するロストフ地方のブースでは、奇をてらった展示が登場した。煙が吹き出す台の上で世界各地の札束が燃え、世界の不動産価格の下落をグラフで表示。同じブースには気球の模型も置かれ、傍らには客室乗務員の格好をしたかわいいロシア娘が立っている。

 ロストフ地方の投資促進部のIgor Burakov氏によると、「昨年はモスクワを始めロシアの主要都市の不動産価格が下がったが、ロストフ地方は1.5%上昇した。機械、農業を主体とした経済も堅調だ。つまり、上昇気流に乗る、魅力的な土地柄を表現した」ということらしい。よく見ると、気球は防弾鉄鋼で覆われ「CRISIS PROOF」の大きな文字が・・・。知名度の低い地方ならではの奇抜な展示アイデアは、会場の話題をさらっていた。大都市の展示に負けず劣らず、注目度の点では成功したようだ。

 各展示ブースがパーティー会場と化す最終日前日の午後。ロストフ地方ブースに設けられた豪華な大型応接セットも、祝杯をあげる大柄なロシア人達で占められていた。

篠田 香子=フリーライター