ニューヨーク大学のNouriel Roubini教授
ニューヨーク大学のNouriel Roubini教授

 本誌がカンヌを取材するのは今年で3回目。現地のテレビでは連日、対岸のリビアの内戦とシラク前首相の不正経理疑惑のニュースが流れているが、会場のパレ・デ・フェスティバルには昨年より幾分リラックスしたムードが漂う。日米欧の株価は一進一退しつつも回復軌道をたどっており、オフィスビルなどの商業用不動産の価格も上昇に転じつつある。ただ、クリアな方向感は見いだせないのが現状だ。

 現地時間の10日に行われたキーノートスピーチで、米財務省の顧問として経済政策に深く関わるニューヨーク大学のNouriel Roubini教授は「QE2(量的緩和第二弾)効果で、米国のダブルディップ(二番底)懸念は遠のいた。ただし、住宅価格は別だ」と指摘した。金融危機後に力強い回復を続けてきたS&Pケース・シラー住宅価格指数は、2010年後半から再び下落に転じている。また、地元欧州で起こったギリシャ危機、アイルランド危機は、欧州中央銀行(ECB)の緊急融資枠設定などでかろうじて拡大を食い止めた状態にある。

 Roubini教授は大ホールを埋めた来場者を前に「日本も含めた先進国の経済成長率はプラスに転じているが、食料、石油の価格上昇によるインフレを通じた景気の腰折れ懸念が広がっている」と語った。欧州のリーダーとして力強い回復を遂げたドイツでも、中国やインドといった途上国のもろい経済に頼る構造は変わっていない。今のところ、先進国の不動産価格は金融緩和の恩恵を受けて上昇局面にあるが、テナントの入居につながる実需の回復が安定軌道に入るには、いくつものハードルを乗り越える必要があるという印象を与えた。

本間 純=フランス・カンヌ