François Trausch氏(左)、山下悟氏(中央)、Jin Seo氏(右)
François Trausch氏(左)、山下悟氏(中央)、Jin Seo氏(右)

 ユーロ危機を経験し、やや自信喪失状態にある欧州にあって、アジア諸国の旺盛な需要は輸出経済の頼みの綱だ。ここカンヌの会場においても、年を追うごとにそのその存在感は増している。投資先として中国やインドの都市開発に注目が集まるのは従来同様だが、今年は「投資家としてのアジア」がクローズアップされた。

 金融危機後の不動産市場で、アジアマネーの存在感を世界に知らしめたのが韓国国民年金公団(NPS)だ。2010年夏にかけて、ロンドンのHSBC本社、ベルリンのソニーセンターなどの“トロフィー・アセット”を立て続けに買った同公団は、世界中の不動産関係者の度肝を抜いた(関連記事)。民間ファンドがこれに続く動きもあり、欧州の投資家の間では、“ソウル詣で”が流行しているという。

 8日に行われたパネルディスカッション「Asian Capital: Regional Plans, Global Ambitions」で、Samsung Fire & Marine InsuranceのJin Seo氏は、これまでサムスングループが世界で築いてきた現地法人のネットワークを通じて、海外不動産での投資機会獲得に乗り出す意向を明らかにした。

 同じくパネルとして登壇した三井不動産投資顧問の山下悟氏(ファンドマネジメント部第3グループヴァイス・プレジデント)は、「欧州のファンドマネジャーに出会うたび、日本の資本に対する潜在的な期待感の大きさを実感する」と語る。約117兆円の資産を抱える世界最大の年金基金、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や豊富な個人貯蓄の存在がその理由だ。山下氏は「GPIFの運用は政治的に解決すべき問題がいくつもあるが、いったん動き出せば、民間年金でもこれに倣って不動産投資が普及する可能性が高い」とみる。

 低成長の経済と高齢化問題を共通に抱える先進国の年金基金にとって、海外への分散投資は大きなトレンドになっている。GE Capital Real EstateのアジアパシフィックCEOとして東京から参加したFrançois Trausch氏も、「日本の年金の動きは世界市場に大きなインパクトを与える」と予想する。日本の年金、ファンドが世界のビッグプレーヤーになる日は意外と近いかもしれない。

本間 純=フランス・カンヌ