吉田修平氏(吉田修平法律事務所) 1952年生まれ。第一東京弁護士会所属。政策研究大学院大学客員教授。不動産を専門分野とする弁護士として、国土交通省の高齢者専用賃貸住宅研究会委員などを歴任。近著に「Q&A 震災と建物賃貸借」(金融財政事情研究会)
吉田修平氏(吉田修平法律事務所) 1952年生まれ。第一東京弁護士会所属。政策研究大学院大学客員教授。不動産を専門分野とする弁護士として、国土交通省の高齢者専用賃貸住宅研究会委員などを歴任。近著に「Q&A 震災と建物賃貸借」(金融財政事情研究会)

 今夏の節電による電気料金削減相当額をテナントに還元するか否かで、ビルオーナーの対応が分かれている。テナントへの還元を4月に決めた郵船不動産では、その総額が約1000万円になった。一方で、他のビル事業者からは「契約上は返さなくてもよいはずだ」、「精算の手間に見合わないわずかな額だ」などの声も上がる。賃貸オフィスビルの節電で浮いたお金は誰のものなのか、識者に聞いた。

 日本ビルヂング協会連合会(ビル協)は、「契約形態はビルによって異なる。各社の経営判断事項であり、連合会として統一見解を出すことではない」(金子衛事務局次長)と説明する。では、ビル協が発行している「オフィスビル標準賃貸借契約書」の参考条文に従って契約を結んだ場合、節電による共用部の電気料金削減相当分をテナントに支払う義務が生じるか。支払う義務はないというのがビル協の結論だ。ちなみに参考条文は、賃料と共益費が別立てになっており、契約期間内は共益費を定額とすることを想定している。

 これとは異なる見解もある。不動産を専門とする吉田修平弁護士は、「返すという判断は理屈上、正しく、合理的、良心的な対応だ」と語る。判断の根拠として示すのが、共益費は実費という考え方だ。世の中には共益費を賃料に含めた契約もあるが、本質的な考え方は変わらないという。さらに、ビルオーナー側の対応については、「節電対応でビルオーナーにも余計な費用がかかっているのなら、電気料金が下がった分と差し引きするとこうなりますと説明するのが、あるべき姿だ」(吉田弁護士)と話している。

 節電の夏が過ぎ、改めて電気料金削減相当額の還元をビルオーナー側に求めるテナントも出てきた。ビル事業者の説明責任が問われている。


*吉田修平弁護士へのインタビュー全文を「日経不動産マーケット情報 11月号」に掲載しました。

<吉田弁護士への主な質問>
●節電相当分を返すのが正しいという判断は、どのような根拠に基づくのか。
●共益費込みの賃料や、共益費の名目もない賃料一本の場合、判断は違ってくるか。
●東日本大震災後の節電では、ビルオーナーも想定外の出費を強いられた。蛍光灯や電球の間引きに手間がかかったり、新たに省エネ型の設備や製品を導入したり。そうしたオーナー側の事情は、節電相当分の費用を返さなくてよいという理由になるか。
●オフィス専用部の節電分の還元の判断は。
●今回の節電を受けて、賃貸借契約書の内容を改めるなどの対応は必要か。
●今後も国からの節電要請があるかもしれない。ビルオーナーは、どのような準備をしておくべきか。