サイコロのようなキューブ形状と外周を覆うルーバーが特徴のラゾーナ川崎東芝ビル。向かって右側の低層の建物は商業施設、ラゾーナ川崎プラザ
サイコロのようなキューブ形状と外周を覆うルーバーが特徴のラゾーナ川崎東芝ビル。向かって右側の低層の建物は商業施設、ラゾーナ川崎プラザ
柱間隔が9m、天井高3mのオフィスフロア。基準階面積は約2000坪
柱間隔が9m、天井高3mのオフィスフロア。基準階面積は約2000坪
「エコシェルフ」と呼ぶバルコニーは庇も兼ねる。室外機をここに置くことで冷媒管が短くなり、コスト抑制と空調効率向上につながった
「エコシェルフ」と呼ぶバルコニーは庇も兼ねる。室外機をここに置くことで冷媒管が短くなり、コスト抑制と空調効率向上につながった

 ビルはJR川崎駅から徒歩2分の場所にある。隣は、人気のショッピングモール、ラゾーナ川崎プラザだ。

 事業主である野村不動産グループのNREG東芝不動産が、低コストを志向したのは2009年のことだ。2008年当時の川崎駅周辺のAクラスビルの賃料相場は共益費込みで坪2万円ほど。それがリーマン・ショックで賃料は下落した。東芝から取得した土地にオフィスビルを建てても、昔の相場では借りてもらえない。

 東芝へのヒアリングから出てきたのが、共益費込みで坪1万円台半ばという水準だった。そうなると坪100万円の建設費では、期待した6%のNOI(純収益)利回りが得られない。導き出されたのが「坪50万円」という目標だ。

 言い出したのは当時、NREG東芝不動産・取締役兼専務執行役員を務めていた飯田和夫氏だ。設計事務所から野村不動産に転職し、常務執行役員になった異色の経歴の持ち主。経験から、都市型商業施設では坪20万円台のビルがあり、オフィスビルでも工夫を凝らせば安くつくれるという思いがあった。

 問題は躯体費だ。特に鉄骨に費用がかかる。これをどうにかしないと全体が下がらない。マルチテナントのビルなら柱はない方が好まれるが、誘致したいのは東芝だ。東芝にとって移転によるコストメリットが生まれ、しかもNREG東芝不動産の望む利回りが見込める手段について、基本設計と設計監修を委託した日建設計の山梨知彦氏(現執行役員、設計部門代表)とともに考えた。

 山梨氏は、環境ビルとして名高いソニーシティ大崎の設計者としても知られている。「高品質なビルを、びっくりするほど安い費用でつくりたい。既成概念にとらわれずにアイデアを出してほしい」という飯田氏の言葉が、設計者魂に火を付けた。