――不動産がオペレーショナル・アセット化していると書かれています。どういうことですか。

松村 もともとオペレーショナル・アセットとは、管理運営に特別なノウハウや専門性が必要で、オペレーターの運営力や信用力などによって、安定性や収益性が左右される資産のことです。商業施設やホテル、レジャー・アミューズメント施設、病院・診療所が典型的なオペレーショナル・アセットで、最近注目されるサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームなどのシニア不動産、シェアハウスやシェアオフィスもそうです。

 不動産をオペレーショナル・アセットとして捉えることは、これからの不動産ビジネス戦略において非常に重要だといえます。今や不動産は、パソコンと同じように「ソフトがなければただのハコ」に過ぎません。

松村徹氏(ニッセイ基礎研究所 不動産研究部長)

 これからは、ソフトに磨きをかけなければ、新たな成長の芽を見いだすことができないという認識が必要です。ここでいうソフトには、不動産利用に関わるさまざまなサービスや現場での創意工夫の意味に加えて、オペレーターである不動産事業者の能力という意味もあります。

 本のなかでも説明していますが、かつての高度経済成長時代のように、誰が経営してもある程度うまくいくような不動産領域はほとんどなくなっています。オペレーショナル・アセット化は、プレーヤーの真の実力が問われる選別と競争の時代になっていることを象徴する言葉といえます。

 マーケットの二極化やビジネスの選別化が進んだことで、賃貸オフィスビルや賃貸住宅も、オペレーショナル・アセット化が進んでいます。分譲マンションも同じです。

――分譲マンションもオペレーショナル・アセットに入るのですか。

松村 本来のオペレーショナル・アセットの定義とは少し違いますが、マンション生活をサポートする管理会社の努力や能力によって資産価値が左右されるという意味で、オペレーショナル・アセットの一種とみるべきだと思います。ふだん不動産ビジネスと直接、縁のない区分所有権者にとって、マンションの資産価値維持に関する知識や情報の量は心もとなく、多数の管理実績やノウハウを持つ管理会社の協力やアドバイスが不可欠です。

 私は管理組合の理事長を2年間務めましたが、わからないことばかりで往生しました。そのとき、「資産価値の維持」がキーワードであり殺し文句であることを実感しました。解決すべき課題に対して反対論があったときに、「そんなことをすれば資産価値が下がりかねない」と言うと、賛成に回ってくれることもよくあったからです。

 不動産会社は、売り主として資産価値の落ちにくい優良な住宅を販売することが何よりも重要です。資産価値維持のために、管理組合へのアドバイスや支援をもっと積極的に行ってもよいのではないでしょうか。中古マンション価格の査定に、管理状況やコミュニティーに関わる評価軸を設けるなど、流通マーケットの改革にも主体的に取り組んでほしいと思います。

――オペレーショナル・アセット化に対応するためには、何が一番大事ですか。

松村 ソフトのパワーを磨き上げることに尽きるでしょう。もう少し丁寧に言うと、スモールビジネスの部分にもっと投資していくことが大事です。不動産ビジネスというと、大規模で華やかな都市開発事業やファンドによる大型物件の売買など、ビッグビジネスの側面に脚光が当たりがちで、建物の維持管理や個人住宅の取引が大きな話題になることはまずありません。

 どんな不動産であれ、その資産価値を維持するために現場における日々のメンテナンスや細やかな工夫が必要です。現場がうまく回らなければどんなビッグビジネスも成り立たないという意味で、スモールビジネスが不動産本来の姿といえるでしょう。日々、顧客の企業や個人からのある意味、面倒くさい要求に対処しつつ、時代の大きな変化を読んで不断の努力や工夫を永続的に続ける必要がある点や、日銭は入るが大もうけが難しい点もスモールビジネスの特徴です。

 しかし、スモールビジネスだからこそ面白いのです。これから不動産ビジネスに携わる人たちには、不動産ビジネスは面白いという価値観を大事にしてほしい。マネーゲームや金もうけの手段としてしか不動産をみられないプレーヤーは、オペレーショナル・アセット化した不動産を扱う資格はないといってもいいでしょう。
(次回に続く)

不動産ビジネスはますます面白くなる

不動産ビジネスはますます面白くなる

  •  定価:2,310円(税込)
  •  ニッセイ基礎研究所 不動産投資チーム
     (松村徹/竹内一雅/岩佐浩人/増宮守)著
  •  A5判、208頁
  •  2013年8月5日発行

聞き手:丹治明香(フリーランス)