3月12日火曜日、世界最大規模の不動産イベントであるMIPIM(ミピム)が南仏カンヌで開幕した。今年30回目を迎える同イベント。日経不動産マーケット情報にとっては連続11回目の参加となる。

 不動産市場の景気バロメーターともいえるMIPIMの来場者数は、月初時点の主催者予想で約2万6500人を数える。長く続いた上向きの市況もそろそろ頭打ち。パーティーの終わりを感じ始める昨今にあっても、過去10年間の記録を更新する見込みだ。

入場バッジを求めて列を作る参加者たち。後ろは古城のあるカンヌ旧市街(写真:筆者)
入場バッジを求めて列を作る参加者たち。後ろは古城のあるカンヌ旧市街(写真:筆者)
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メイン会場のパレ・デ・フェスティバル・エ・コングレ(通称パレ)。カンヌ映画祭の場でもある(写真:筆者)
メイン会場のパレ・デ・フェスティバル・エ・コングレ(通称パレ)。カンヌ映画祭の場でもある(写真:筆者)
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 4日間の会期中は公式・非公式合わせて500近くの講演やパネルディスカッションが予定され、模型展示やパーティーが華を添える。潘基文(バン・ギムン)前国連事務総長の基調講演で始まった初日の会議。やはりというべきか、最も会場の話題を集めたのは、3月末に期限が迫るブレグジットだ。

 日本やドイツと並んで世界有数の不動産投資市場である英国。このカンヌの地にも例年、多くの参加者を送り込んでおり、今年の参加者は昨年の5600人を大きく上回る規模になる見込みだ。特に欧州の資本市場のハブであるロンドンで金融機関の流出のニュースが相次いでいることは、現地の不動産業界を浮き足立たせている。

 くしくも、この日はTheresa May(テリーザ・メイ)首相が英議会に再提出したEU離脱案が否決された当日にあたる。今後、通商合意のない「ハード・ブレグジット」を避けるべく、ブリュッセルとの間で離脱期限の延長が協議されるとみられる。ついにストップウオッチが刻々と時を刻み始めた状況だが、筆者が見た限り、会場の登壇者たちは冷静な発言に終始していた印象だ。

今年も海を望む屋外にロンドンパビリオンが設置された(写真:筆者)
今年も海を望む屋外にロンドンパビリオンが設置された(写真:筆者)
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 例えば「UK: Post Brexit Strategies」と題した当日のパネルディスカッション。スコットランド政府や北アイルランド・ベルファスト市の代表に交じって登壇したロンドン・シティ地区行政府のCatherine McGuiness(キャサリン・マクギネス)氏は、現在の状況を飛行中の「タービュランス(乱気流)」に例えた。

 これまで何度も経験した一時的な混乱の一つであり、長い目で見れば同市の約束された未来に変わりはないとの見方だ。高等教育機関の集積や質の高い労働者、テック産業の集積といった材料が彼女の主張を裏付ける。

UK: Post Brexit Strategiesと題したパネルディスカッションの様子(写真:筆者)
UK: Post Brexit Strategiesと題したパネルディスカッションの様子(写真:筆者)
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壇上の強気と酒場での弱気

 ただし、人々の本音は公式の場でなく、ふとした雑談や酒場での会話に現れるもの。英国から来た業界の知人は、「ブレグジットはディザスター(大失敗)だ」と筆者にぶちまける。「将来EU再加入をめざすとしても、創立時のメンバーとして獲得した独自の地位を維持できる見込みはない。今さらポンドを捨ててユーロ圏ヘ加入するのも非現実的だ」。

 すでに一部で製造業や金融機関の国外流出が始まったのに加え、輸入物価の上昇が人々の生活を直撃しつつある。進出企業の間には様子見ムードが広がり、ショッピング街ではブランドショップの開業延期が相次いでいると伝えられる。足元においては、ポンドの価値下落に伴って割安感が生まれたロンドンの不動産をアジア富裕層が買う現象も見られるが、停滞感を打ち消すほどのインパクトはない。

 パーティーで会話を交わしたドイツの大手投資会社は、ブレグジット決定を受けて、英国で検討していた開発プロジェクトをすべてキャンセルしたと明かす。すでに収益を生んでいる物件の取得は今後も続けるが、先行きの不透明性を考えると、開発やリーシングのリスクを取りきれないという。

 一方、北欧の大手ファンドマネジャーは、「期間を定めない長期投資であれば英国という選択もあるかもしれない。だが、クローズドエンドのファンド運用者としては不確実性のリスクを取れない」と語り、当面はヨーロッパ大陸に注力する方針を示した。

 米大手仲介会社、Cushman & Wakefieldは、同日発表した調査レポート、Global Investment Atlasの中で、2019年通期の事業用不動産取引高を1兆7500億ドルと予測。前年比4%の増加を見込んだ。今が市況サイクルの終盤であることを踏まえれば、楽観的な見方といえよう。

 しかし、こうした予測に全ての政治的リスクを織り込むことは不可能だ。ブレグジットが対岸の火事に終わるのか、それとも世界の資本市場を巻き込む大混乱をもたらすのか。その答は誰も用意していない。

 会議の様子は日経不動産マーケット情報の5月号と本ウェブサイトで引き続き報道していく予定だ。

オープニングパーティーでは花火が空を彩った(写真: V. DESJARDINS/Image & Co)
オープニングパーティーでは花火が空を彩った(写真: V. DESJARDINS/Image & Co)
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本間 純=仏カンヌ