好材料と悪材料が交錯

 米業界団体のUrban Land Institute(ULI)が15日午後に開催したパネルディスカッション「Emerging Trends in Real Estate」では、世界に広がる“アンチ・エスタブリッシュメント・ポリティクス”が取り上げられた。外交的な挑発を繰り返す米大統領候補で不動産王のドナルド・トランプ氏、英国のEU残留をかけて6月に予定される国民投票の行方、そして急増する難民の受け入れを巡って右傾化するドイツ世論――。大衆の不満を集めて極端な政策に走る政治家の動きは、いずれも無視できない形で投資家の心理に影響しつつある。

「Emerging Trends in Real Estate」と題したパネルディスカッションの様子
「Emerging Trends in Real Estate」と題したパネルディスカッションの様子
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 ULIがPricewaterhouseCoopers(PwC)と手がけた共同調査によると、欧州の投資家の81%がこうした地政学的リスクを「特に」あるいは「やや重要な」中期的な投資戦略上の課題だと回答した。「皮肉なことに、すべての経済指標が不動産投資の魅力を論証している」(PwCのByron Carlockマネージングディレクター)にもかかわらず、投資家の不安は晴れない。

 センチメントの変化は来場者の会話の端々に出てくる。例えば、最も開かれた不動産市場といわれる英ロンドンでは、昨年まで盛んに実施されていた公開入札が影をひそめつつあるそうだ。英国からの参加者によると、応札者が顕著に減ったことに加え、落札者が購入を辞退するケースも増えている。物件の評判を落とさないようにするため、仲介会社は水面下で個別に交渉するようになったという。

 また、世界中の拠点からカンヌに社員を送り込んでいたあるグローバルなコンサルティング会社は今年、フランス国内の社員だけを参加させることでコストを圧縮したという。パーティーの誘いが減ったとの声も聞く。一部の企業はこれまでの拡大路線を軌道修正しつつある印象だ。

 一方で、ポジティブな材料も提示された。Jones Lang LaSalle(JLL)が15日に発表した予測では、2020年までに世界全体の不動産取引高は2015年よりも4割多い1兆ドルに達するという。世界の高齢化を背景とした年金基金の資金量増大が背景にある。シンガポール政府投資公社(GIC)など名だたる政府系ファンドも、長引く低金利や株式市場のボラティリティ増大を受けて、不動産投資への資金アロケーションを高め続けている。こうした長期的なトレンドは足元の市況いかんに関わらず、すぐに消え去ることはないだろう。

 ひとたび会場の外の酒場に目を転じれば、久しぶりに再会した仲間たちと酒をくみ交わす人々のいつもながらの光景がある。1日目が終わっただけで今年のMIPIMを語るのは早計だが、あえて言うなら皆、先行きの方向感を見失っている印象だ。好材料と悪材料が交錯する現在の状況を、ある投資ファンドからの参加者は飛行機のフライトに例えて「Turbulence, not a panic(乱気流だがパニックではない)」と表現した。

会場前のレストランCafe Romaに集う会議の参加者たち
会場前のレストランCafe Romaに集う会議の参加者たち
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本間 純=仏カンヌ